執行部案の問題点?日弁連臨時総会への対応について

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弁護士会館の15階からは、眼下の日比谷公園とその向こうのオフィス街を良く眺めることができます。

さて、一方で先行きの見えない司法制度改革はこれからどうなることでしょうか。平成28年3月11日午後2時より、弁護士会館において日本弁護士連合会臨時総会が開催されます。

招集請求者側の議案について私が考えたことは、「司法制度改革を問い直す?日弁連臨時総会への対応について」で触れたとおりですし、また、藤本一郎先生がご提案をされた第三案について私が考えたことは、「藤本案を考える?日弁連臨時総会への対応について」で既に触れたとおりです。

 

大本営発表

平成28年1月22日の夕方のことですが、突如日弁連からFAXが送られてきました。

このようなFAXをうちでは大本営発表と呼んでおりますが、ともかく、日弁連の執行部が臨時総会に際して「日弁連執行部提出議案」なるものを出す、ということでした。

続いて、同月26日にも会長名義で執行部案の支持を呼びかけるFAXが来ました。

苦言を申し上げますと、一方的に執行部が自らへの支持を露骨に呼びかけるというのでは、いささか品のない対応のように見えます1。招集請求を行った少数派会員の存在にも配慮をした上で、議論を尽くそうとする姿勢を示して頂きたいものです。議論する前から少数派を封殺しようとする組織が、果たして、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することなんてできるのでしょうか。

 

執行部提出議案

執行部提出議案は次のようなものです。

1 まず、司法試験合格者数を早期に年間1500人とすること。

2 法科大学院の規模を適正化し、教育の質を向上させ、法科大学院生の多様性の確保と経済的・時間的負担の軽減を図るとともに、予備試験について、経済的な事情等により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得の途を確保するとの制度趣旨を踏まえた運用とすること。

3 司法修習をより充実させるとともに、経済的事情によって法曹への道を断念する者が生じることなく、かつ、司法修習生が安心して修習に専念しうるよう、給付型の経済的支援として、給費の実現・修習手当の創設を行うこと。

率直な感想としては、1の議案以外は一読してその意味がはっきり分かりません。言質を取られたくないということなのでしょうか。

以下、議案の順序とは逆になりますが、それぞれ検討してみます。

 

修習手当の創設

「修習手当」というのは初めて聞いた言葉です。これは一体何でしょう?まさか、給付水準を大きく下げて、修習生に小遣い渡して満足させる程度で妥協するなんてことにはならないのでしょうか。

確か、何日か前に、日弁連及び各弁護士会は、国会議員の過半数が修習生への給費に賛成する見込みだというような理由で一斉に会長声明を出したのではないか、と思って1月20日の日弁連会長声明を良く読むとこう書いてあったのでした。

司法修習生に対する給付型の経済的支援(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。

司法修習費用給費制存続緊急対策本部からは「規模感としては全く譲っていない」という説明があったようですが、それならなぜ「給費制の復活」とはっきり言わないのでしょう。言葉が違えば意味も違います。妥結を念頭に新しい言葉を持ち出したのか、との疑念が募るところです。

修習生への給費が実現するのは喜ばしいことですが、修習専念義務が課せられている以上、給費の水準としては同じ拘束時間で労働した場合の対価に見合った代償であるべきですし、司法修習生が修習に取り組むのに十分な金額でなければなりません。それを、万が一にも、お茶を濁す程度の成果で終わることになれば、これまで給費制の復活に向けて活動してきた人々、特に貸与制の下で苦労してもなおそのような活動をしてきた若い先生方の努力に報いたことになりません。

そこで、全国の会員と弁護士会が心と力を合わせて、もっと頑張れ!と執行部を叱咤激励してやらなければなりません。

その意味を込めて、このような議案には賛成しません。

 

予備試験の制度趣旨を踏まえた運用ー受験制限

法科大学院の規模の適正化は、放っておいても志願者が減少することで実現するでしょう。現に次々と法科大学院は廃校に追い込まれています。

そして、教育の質の向上は、関係者に期待するしかありません。更に、法科大学院生への負担の軽減という意味では、飛び級であるとか奨学金の充実であるとか、個別的に手を尽くして頂くしかないと思います。

しかし、予備試験の制度趣旨を踏まえた運用、というのは何を言いたいのでしょう。

そのようなことを言っているところがあったような気がするな、と考えていくと、法科大学院協会の主張に行き着くことになります。法科大学院協会は平成26年11月12日に、「予備試験のあり方に関する意見書」(PDF)を公表しています。

1 「経済的事情等によって法科大学院に進学することができない者」や「十分な社会経験を積んだ者」に限るとする案

2 法科大学院在学生の受験を認めないとする案

3 一定の年齢制限等を設けて、法科大学院の修了者と同等の年齢に達するまでは予備試験の受験を認めないとする案

法科大学院協会は、予備試験の制度趣旨、すなわち「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも」司法試験を受験する可能性を開く制度であるということを楯に、上記のような制限の導入を主張しています。

すなわち、日弁連執行部案の「制度趣旨を踏まえた運用」とは、そのような制限を設けるべきである、という意味です。

なぜ、日弁連が法科大学院協会に追従するのか全く理解ができません。

予備試験の人気があるのは、法科大学院を中核とするプロセスによる法曹養成制度への不満と不信感の現れに他なりません2。一方で、予備試験は、誰でも受験ができ、幅広く試験がなされ、競争も厳しいという意味で、公平であり信頼できる試験です。先の意見書は我田引水の最たるもので、こんなことを法科大学院協会が自分で言えば集団的エゴイズムの現れでしかないとの非難は免れません3

だから、日弁連が追従するのはおかしいのです。むしろ、法科大学院が法曹養成の中心になりたいなら予備試験のことは気にせずちゃんとやれ!と励ましてやることが、法律家団体としての日弁連の努めではないでしょうか。

そこで、全国の会員と弁護士会が心と力を合わせて、法科大学院に奮起を促せ!と執行部を叱咤激励してやらなければなりません。

その意味を込めて、このような議案には賛成しません。

 

誰が決めたのか?ー合格者1500人

合格者1500人という数字は、法曹養成制度改革推進会議4の平成27年6月30日付「法曹人口の在り方について(検討結果取りまとめ)」(PDF)に基づく目標ということになると思います。

この取りまとめには、次のような指摘があります。

法曹養成制度の実情及び法曹を志望する者の減少その他の事情による影響をも併せ考えると、法曹の輩出規模が現行の法曹養成制度を実施する以前の司法試験合格者数である1,500人程度にまで縮小する事態も想定せざるを得ない。そればかりか、このまま何らの措置も講じなければ、司法試験合格者数が1,500人程度の規模を下回ることになりかねない。

すなわち、司法試験合格者を早期に1500人にする目標は、そもそも日弁連が努力せずとも達成されてしまう可能性があります。それだけ法科大学院への志願者が激減し、そして司法試験の受験者も減少に向かっている実情にあるということです5。そのような局面に至れば、もはや法科大学院の入試も適正な選抜機能を果たせなくなり、司法試験も同様に適正な選抜機能を果たせなくなります。

それで良いのでしょうか?

限度はありますが、相応の競争があることは質の維持の上で必要な要素であり、それが法曹に対する社会の信頼の源泉となっていることを軽視すべきではないと考えます。

あとはもう、前々稿で請求者議案について述べたとおりですから、多くは述べません。

そこで、全国の会員と弁護士会が心と力を合わせて、法曹人口論を真剣に考えよう!と執行部を叱咤激励してやらなければなりません。

その意味を込めて、このような議案には賛成しません。

 

まとめ

日弁連執行部の提案した3項目の議案の内容は、いずれも、

日弁連が主体的に何をしたいのか見えない

という顕著な共通性があります。どうせ日弁連が決議なんかしたって法的効果があるわけじゃないし、現実は推進会議だとか財政当局だとか法科大学院協会だとかの顔色窺ってうまくやっていくしかないでしょ、というあきらめの姿勢がそこから透けて見えてきます。

おかしいことをおかしいと指摘しないで弁護士なんか務まるものですか。

村越会長は、招集請求者たちを批判し、「最も強硬な主張をすればより有利な解決が得られる。法曹人口については、可能な限り少ない数を主張する方がよいのだ。」という考えが間違っているといいます。それは会長の仰るとおり間違いです。私は、そんな三流弁護士の駆け引きだか交渉術みたいな発想で法曹人口論を考えている訳ではありません。他の多くの人々だってそうでしょう。

司法制度改革のもたらした歪みを正し、いかにしてより良い社会をつくることができるか、そして、いかにしてそのための活動を担う良き人材を仲間に迎えることができるか、ということを真剣に考えて提案をしているのです。どうか変な誤解をしないで頂きたいと思います。

そして、この臨時総会で出た結論がどうであろうと、そのための取り組みを続けるべきことに変わりはありません。引き続き、より良い法曹養成制度を実現するための会員相互の真摯な議論を期待し、そして私自身も何かの役に立てれば良いと考えます。

 

 



  1. なお、東京弁護士会の会長も、同会のウェブサイト「新年に誓う」と題するページにて「会員の皆さまには、日弁連執行部提案の議案への賛成と、一部の少数の招集請求者の議案への反対をお願い致します。」「皆さまの良識ある対応をお願いします。」などと呼びかけているが、一部の少数の招集請求者は良識がないと馬鹿にするかの如き主張である。 

  2. 法科大学院協会はプロセスとしての教育課程にこだわり続けているが、転じて見ると、法学研究者には修士課程あるいは博士課程を経ていない者も少なくない。法学研究者の世界においては、特に優れた知識や能力を有する者にはプロセスとしての教育課程は不要であるとでも考えられているのであろうか。 

  3. もちろん、予備試験経由者が法曹となったときに何か資質に問題があるので社会に迷惑が掛かっている、という主張なら別に構わないのである。しかし、法科大学院協会の主張はそうではない(そもそもそんなことは立証できないだろう)。志願者の主な関心が予備試験に行ってしまうと法科大学院への志願者が減ってその存立が維持できなくなるという都合で、自らの在り方を省みようとすることなく予備試験を制限しろと主張しているだけである。 

  4. その構成員は、内閣官房長官、法務大臣、文部科学大臣、総務大臣、財務大臣、経済産業大臣である。その下に設置された顧問会議の人選はこちらのとおり。 

  5. 法科大学院志願者が5万人くらいいれば、司法試験合格者1500人にするということでも良いかもしれないが、もはやそのような状況ではない。