弁護士の需要を考える・その3

これまで、弁護士の需要を考える、及び、弁護士の需要を考える・その2、で具体的な実例等も交えて、弁護士の需要とは何か、ということを考えてきたところですが、やはり、生まれてははかなく消える需要ということのようで、なかなかその機会を捉えることは難しい、といった感があります。

 

弁護士の1丁目1番地

ところで、弁護士法1条1項はこのように定めています。

弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。

これは単なる精神規定だという考え方も当然あり得るのですが、この使命というのは何か、ということは考えてみても良さそうです。

「社会正義」とは、人が社会生活を送る上で求められる正義をいうものと解される。「正義」の意味については、アリストテレス(Aristotelēs)が、配分的正義と矯正的正義(平均的正義)を区分し、前者には各人の値打ちに応じた比例配分の原理が妥当し、後者には給付と反対給付、犯罪と刑罰、損害と賠償という等価性の原理が妥当するとして以来、今日までさまざまに論じられている。1

さて、概説書の解説にはこうあります2。2300年以上前の偉大な哲学者まで登場してきましたが、正義の問題を語るには欠かせないということでしょう。

 

正義とは何か

高中先生の本にはアリストテレスの正義論が例示されていましたので、せっかくですから、私自身は哲学には全くの門外漢ではありますが、あえて、正義とは何かという観点からこの問題を考えてみようと思います。

私が教わった限りでは、アリストテレスの正義論には、一般的正義と特殊的正義があるといいます。ここで、一般的正義というのは遵法のことであり、特殊的正義というのは平等のことです。

そして、平等とは、より具体的にいえば、各人の価値に従った分配が要請されるということと(配分的正義)、不平等な事態が生じたときに原初の状態への回復が要請される(匡正的正義)、ということを意味するとされます。

以上、甚だ心許ない感じの正義論の理解で恐縮なのですが(どうか許して下さい)、大枠としてはそういうことのようです。

 

弁護士の仕事と正義の実現

確かに、弁護士の仕事により、正義の実現という結果がもたらされている例は数多くあります。遺産分割で寄与分を主張するのも、不法行為に基づく損害賠償を請求するのも、未払賃金を請求するのも、犯した罪に対しては適正な刑罰を主張するのも、いずれも正義の目的に向けられた営為という見方はできます。

過払系事務所が、派手な広告を打って客を集めて取り戻しているのは、実はお金ではありませんでした。何と、あれは、正義を取り戻しているのです。

もっとも、低い水準で和解したとか、報酬が高すぎたといった理由で、最終的に依頼者に取り戻されたお金の量が少な過ぎるようであれば正義に反するという問題はあるかもしれませんが…。

 

弁護士の主戦場

弁護士の仕事が求められる場所はどこかといえば、要するに、正義を実現しなければならない場所はどこか、ということと同じです。無論、そこからは、具体的にあれこれの仕事をしたら儲かる、といったことが導かれるわけではありません。しかし、どこでいかなる仕事をなすべきか、という問題を考える場合には、この観点からの考察は大きなヒントを与えてくれます。

すなわち、正義の実現されていない場所こそ弁護士の主戦場であるということです。それは、先の正義についての考え方を踏まえれば、具体的には、各人の価値を無視した分配がなされているところと、後で生じた不平等を回復する必要があるところ、です。より平たくいえば「取り過ぎ」なところ、といっても良いかもしれません。

勿論、そのような状態が明確に見える場所もあります。そこでは皆が従来どおりの仕事を請け負うでしょう。しかし、そのような状態が明確でなくとも、社会の在り方を洞察しながらそれがどこなのか考える、ということが弁護士の仕事を続けていく上では必要とされる営みだと思います。

こうした観点からは、目先の利益に囚われず、社会を鋭く見つめて問題点を探す姿勢を維持することが大切だということに思い至ります。公益活動の重要性は事ある毎に指摘されますが、それは弁護士の仕事を持続させることの根本に関わっているからではないのでしょうか。

 

まとめ

到底、明確な結論が出そうにないことですが、私にとって答えの出ない弁護士道ということではあります。そして、精神論だけでは食っていけないんだとの実際上の困難も当然あることでしょう。

それでもなお、私としては、社会を良く見つめて、あるいは周りの人々の話を良く聞いて、どこでいかなる仕事をなすべきなのかということを今後も良く考えて、実践して行きたいと思います。

 

 



  1. 高中正彦「弁護士法概説」〔第3版〕26頁(2006、三省堂) 

  2. なお、同書では続けて「しかし、ここでは「正義」の概念を精緻に定義づけることよりも、近代憲法の基本原理である自由と平等を国民の社会生活上で実現するという趣旨にとらえて、弁護士の使命を理解していくのが妥当であろう。そして、社会正義を「実現する」とは、そのような社会正義が達成されるように努め、行動することをいうものと解される。」との見解が示されている。