法テラス10周年-失われた10年と今後に向けて


ということで、法テラスこと日本司法支援センターは、業務開始から10周年を迎えました。

しかし、業務開始10周年となりましたことを心からお祝い申し上げ…られるような思いには到底至らないのが残念なところです。良い機会ですので、司法制度改革の三本柱のひとつ1であるというこの組織の活動について振り返ってみようかと思います。

 

法テラス白書

法テラスの概況については上記の白書を参照していただければと思います。ただ、分量が非常に多いものですから、気になるところを指摘していくことにしようと思います。

 

民事法律扶助関連業務

業務実績が着実に伸びているとの自画自賛ぶりで実におめでたいことです。

しかし、平成27年度の白書を見ると、法律相談援助件数は平成23年度から5年にわたってほぼ28万件前後です。また、代理援助件数も平成21年度から7年間にわたり10万から11万件の間で大きな変化はありません。ですから、着実に伸びているというのは言い過ぎでしょう。

むしろ、弁護士数が増加していながら、それに比例せずに利用件数が頭打ちになっているのがどうしてか、ということを考える必要がありそうです。

ただ、これは推測するなら容易なところで、世の中の紛争自体が頭打ちということよりは、報酬が低廉でありながら事務的な手間が年々増えている民事法律扶助業務を受ける弁護士の数は、契約弁護士の数にかかわらず実際は頭打ちになっているという要素がありそうです。なお、立替金の償還条件も昔より厳しくなったりしているので、被援助者にもより使いづらくなっているように思います。

一方で、毎年度増加する指標として、民事法律扶助の不服申立て件数があります。

白書では弁護士と依頼者のどちらから申立が多いかはっきりしないのですが、いずれにしても、業務量が横這いでありながら不服を有する人が増えているのであれば、関与者の不満の標的になっているだけの法テラスはその存在意義を強く問われるでしょう。

 

国選弁護等関連業務

被疑者国選の選任件数は平成22年度から概ね横這い、また、被告人国選の選任件数は平成21年度をピークに漸減しています。なお、この間、勾留状発布人員及び起訴人員は減っています。

また、少年事件の国選付添に関しては、少年法の改正に伴い平成26年度以降の受理件数は拡大しています。

むしろ、少年事件に関しては、一般保護事件の件数が平成19年度に比べると半分以下になっているという変化の方が重大です。凶悪な少年犯罪が増えたとかいう言説を耳にすることもありますが、これはもう本当にイメージの話で、統計上は少年事件はとても少なくなっています。

犯罪件数が減少する傾向にあるのは社会的には大変良いことです。ただ、それはおそらく法テラスの活動の成果ということではないと思われます。

 

犯罪被害者支援業務


国選被害者参加弁護士への委託件数は、法テラスの事業の中でも毎年度の増加が見られる数少ない分野となっています。

もっとも、当事務所では色々と悩むところがあって、他の法テラスの事業には何とか協力していてもこの分野は扱っておりません。

個人的には、昔、団藤重光先生が大谷實先生に対して「大谷君、10年早いよ」と仰ったというエピソード2がどうも今でも(それからとっくに10年以上経ってますが)引っかかっています。

 

法テラスの弱み

業務開始10年を経た法テラスですが、その認知度として「全く知らない・聞いたことはない」が未だに49.4%あるということですので、必ずしもその活動は国民各層に浸透しているとは言い難いところです。

この組織の一番の問題は、実際の活動を担う大部分は個々の弁護士であるにもかかわらず、事件を取り扱う弁護士を大事に扱わないことにあります。そして、自分の組織だけでは何もできないくせに大風呂敷ばっかり広げようとします。


例えば、27年度白書では、民事法律扶助業務に関するトップのページにいきなり「司法ソーシャルワーク」という単語がちらちら出て来ます。まだ取組の途上ということなのでしょうが、法テラスはこの分野でどの程度実効的なことができるのかよく分かりません。また、そのような取組を本気でできる弁護士が多数育成されているかというと首を捻るところです。

既に少なからぬ弁護士からそっぽを向かれている実情にあるようには感じられますが、法テラスの事業は多数の弁護士の協力を得なければ成り立ちません。そのことを、法テラスの本部はよく認識しなければならないでしょう。

 

地域的な傾向

北海道においては弁護士会が4会存在しますが、各会で法テラスへの姿勢も大きく異なるように思われます。

他会の例で恐縮ですが、そもそも札幌では地方事務所にスタッフ弁護士を配置しておりません。旭川ではスタッフ弁護士を配置したものの、地元からは色々な意見もあるようです。函館はいわゆる4号事務所を導入して弁護士過疎解消に法テラスを活用していると見受けられます。釧路は何とか宜しくやっているように思います。

このように、法テラスへの弁護士会の姿勢は各地域の事情にもより様々です。

小所帯の釧路では、弁護士会から出している所長や副所長が大変苦労してやっているのが他の会員からも良く見えるということもあって、法テラスの制度への不満は色々あるにせよ、地方事務所やスタッフ弁護士への対応は穏やかなように見えます。また、釧路では元会員が初代のスタッフ弁護士として赴任してきたり、弁護士会事務局から移った方が扶助の事務を担当してくれていたので、弁護士側の事情を分かっている人材に恵まれたという事情はありました。

 

まとめ

法テラスあるいは総本山から事務所に怪FAXが流れてきて、法テラスの予算が余ってるから是非代理援助で使って下さい、といったご案内を受けることがあります。

種々の不満はありながらも法テラスの事業を利用するのは依頼者のためです。法テラスの業務拡大の先兵を担うためではありません。

そこで、このようなものを見る度にいつも頭が沸いております。少し落ち着いた方が良いとは思っておりますが。

司法制度改革を批判したり、法テラスのあり方に文句をいうのも、所詮は狭い弁護士業界内部の話であって、コップの中の水をかき回している程度に過ぎないといった批判を受けることもあります。弁護士はもっと外の世界に向けて議論をしろ、という趣旨でしょう。それは確かにそうかもしれません。

しかし、コップの汚れがひどければ、それを磨いて綺麗にするということもまた、やるべきことの一つではあるのでしょう。そのうち扱いを間違えてコップを割って壊しそうな懸念もありますが、次の10年を見据えて、まだしばらくはそのように考えておこうとは思います。

 

 



  1. 法テラス概要より。http://www.houterasu.or.jp/houterasu_gaiyou/ 

  2. 平成24年度「犯罪被害者週間」国民のつどい中央大会での大谷實先生へのインタビューより。「私は1970年、つまり、昭和45年から46年にかけまして、イギリスのオックスフォードで補償制度の勉強をいたしました。イギリスでうまく行っているのだから、是非日本でも作らないといけないと思いまして、ジュリストという雑誌に、イギリス滞在中に3回の連載で論文を書きました。なんとしても日本にも作らないといけないというつもりで書いたのですけれども、ほとんど関心は払われず、無視されてしまいました。イギリスから帰って参りまして、今度は日本刑法学会で報告をいたしました。私がまだ36~37歳の頃です。そうしましたら、最近亡くなられた当時東大の教授で、後に最高裁の判事になられた団藤重光先生が、私の報告が終わると手をパッと挙げまして「大谷君、10年早いよ」と言われました。大変ショックでしたが、そう言われるのにはそれなりの理由がありまして、日本では被害者の問題を取り上げると、どうしても犯人サイドの人権が軽視されるのではないか。新しい刑事訴訟法ができて、被告人や被疑者の人権がようやく定着しつつあるのに、ここで被害者の人権を問題にすると、草の根を分けても犯人を捕まえろ、死刑にしてしまえというふうになって被疑者や被告人などの犯罪者側の人権がおろそかになるというわけです。」https://www.npa.go.jp/hanzaihigai/kou-kei/houkoku_h24/chuou_giji_interview.html