依頼者見舞金制度の展望:アメリカの状況を踏まえて

先日、後見人口座から横領した金でキャバクラ通いにハマっていた元弁護士が実刑判決を受けたというニュースを耳にしました1

人様の大切なお金が無駄にシャンパンタワーに注ぎ込まれていたと思うと、万死に値するといっても足りません。

日弁連が検討する制度の関係でも「シャンパンタワーに会費を投入するのか!」といった情緒的な非難が生じて然るべきことでしょう。

 

日弁連による説明

無論、弁護士による横領等により財産を失う被害者は誠に気の毒ではあります。ただ、一方では、不祥事を起こした弁護士の負うべき損害賠償義務を故意・過失のない第三者が負うべき理由はないというのも不法行為の原則です2

ところで、依頼者保護給付金制度の導入の根拠の一つとしては、アメリカでも同じような制度があるということが挙げられています。

Q.依頼者保護給付金制度のような制度は、ほかに例があるのか。

A.アメリカ合衆国の大半の州で、弁護士が拠出した基金から被害者に一定額の給付を行う制度がある。

なるほど、アメリカがやってるんだったら日本でもやらなきゃならんよねえ、なんて容易に考えてしまいそうです。America?is great!

 

アメリカ法曹協会のレポート

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では、アメリカではどのような実情になっているのか、アメリカ法曹協会(ABA)による依頼者保護基金に関する2014年版調査結果を参照してみることにします。

(PDF)http://www.americanbar.org/content/dam/aba/administrative/professional_responsibility/aba_2014_lfcp_survey.authcheckdam.pdf

この160ページ以下に問題点の記載があります。普段は英語に慣れてませんが、日弁連の一大危機において泣き言をいっている場合ではないので何とか読んでみます。

 

弁護士大国アメリカの惨状

What is the most common problem experienced by your Fund?

固く訳すと「貴基金の経験上最も良くある問題は何か?」という感じでしょうか。以下、各州での回答を意訳してみます。

Alabama:?limited availability of funds to pay out.

ということでトップバッターのアラバマ州からいきなり基金が足りないという話が出てきます。

California: Increase in volume of applications due to loan modification fraud

カリフォルニア州では債務整理詐欺に関する申請件数が増加しているとの指摘です。

Florida:?The Fund has not been able to pay approved theft losses at 100% for the past several years.

フロリダ州でもここ数年は基金が足りず、認められた損害を全ては賠償できなくなっています。

Hawaii:?Unearned Fees.

ハワイ州は過剰報酬の問題を指摘しています。ただ、報酬が高過ぎるというクレームに関してはアメリカでも保障の対象か否かの判断に困難が生じているようです。日弁連の導入しようとしている制度でも、その対象となるか否かの点について難しい判断が迫られることが予想されます。

Kansas:?Multiple small claims files against attorneys with less than 5 years of practice.

日本ではあまり生じていないかもしれませんが、カンザス州では登録5年以下の弁護士に対する少額のクレームが多いということです。

Kentucky:?Restitution efforts remain the most difficult problem the Fund faces. Often times a lawyer is either missing/unreachable or the lawyer is deceased with an insolvent Estate. The Clients’ Security Fund is continuing to explore its options in recovering awards paid to the victims of dishonesty attorneys.

ケンタッキー州では弁護士に対する求償の困難さを挙げています。不祥事を起こした弁護士に対しては、草の根分けても探し出して基金から払った金を取り戻そうとするのは自然な心情ですが、行方不明になったり破産状態で死なれたりすると回収は困難です。但し、日弁連の導入しようとしている制度には、求償の規定は設けられていません3

Massachusetts:?Too long of a delay between the receipt of a claim and the adjudication of the claim.

マサチューセッツ州では対応が大変遅延しているという問題が生じております。

Ohio:?The most common problem experience by the CSF of Ohio is unearned fee claims where the lawyer has provided a portion of the services.

オハイオ州でも過剰報酬の問題があるようです4

Pennsylvania:?We are seeing an increase of claims being made by clients whose lawyer has advised them to establish a trust, with the lawyer to serve as the trustee.

ペンシルバニア州では弁護士が関与して組成する信託に関する問題が多いようです。

Vermont:?misappropriation of client funds.

バーモント州では依頼者の金を横領するのが問題ということですが、これは日本でも大きな問題です。

West Virginia:?lack of staff to investigate claims

ウエストバージニア州からはクレームを調査する人員が不足しているとの声が出ております。仮に制度を導入すれば、そのうち日弁連でも大きな問題になるでしょう。

Wisconsin:?Lawyers who commit suicide/die of natural causes and trust and business accounts are empty

ウィスコンシン州は弁護士の自殺あるいは自然死と、信託用及び業務用の口座が空になっているという問題を指摘しています。なお、弁護士の突然死の事案では、日本でも相続財産管理人の選任や相続財産破産によって処理することはあるでしょうが、口座が空だと被害回復は困難なように思います。

 

まとめ

ということで、単純に「アメリカがー」などと言っている場合ではなさそうです5

もちろん、日弁連は多大な困難を覚悟で今回の制度を導入しようとしているのでしょうが、アメリカの状況を踏まえて学ぶことができるのは、多くの州で件数の増大、基金の枯渇、事務処理の遅延といった様々な問題が生じて制度の運用に苦慮しており、結局、依頼者の不満は解消しないどころかむしろ高まりかねないということです。

まさかとは思いますが、とりあえず依頼者保護のポーズを取ってお茶を濁す程度の覚悟しかないというのであれば、なおさらそんな制度を導入してはならないでしょう。

ここはとにかくしっかり考えて、その上でより実効的な制度を構築しないと、致命的な事態を招くことになるであろうと強く懸念をしています。

 

 



  1. このような事案であるということらしいが、率直にいってあらゆる罵詈雑言しか浮かばないという感想である。http://www.news-postseven.com/archives/20150928_353003.html 

  2. そこで、本件制度は、日弁連に損害賠償義務がないことを前提として、横領等の被害者に「見舞金」を支払う性質のものであると日弁連は説明している。しかし、そのような曖昧な性質を与えたことから、制度を全体として見た場合には非常にちぐはぐなものとなっているように思われてならない。 

  3. なぜなら、損害賠償義務を肩代わりするものではなく「見舞金」だからである。 

  4. なお、オハイオ最高裁のウェブサイトによると、弁護過誤なのか単なる報酬を巡る争いなのかの評価が難しいというようなことが書かれている。http://www.sc.ohio.gov/Boards/clientSecurity/claimtypes/ 

  5. 例えば、石田京子「依頼者保護基金の展望:アメリカの状況を踏まえて」『弁護士の独立性と弁護士会の指導監督:弁護士非行に対する弁護士会の責務』98頁(法曹倫理国際シンポジウム2014資料集、2014年)においては、アメリカで同種の制度を導入している状況であることを紹介した上で、日本における制度導入に積極的な議論を展開する。しかし、この論考においては、2011年版のABAの依頼者保護基金調査に関するレポート(PDF)(http://www.americanbar.org/content/dam/aba/administrative/professional_responsibility/2011_cpfundsurvey.authcheckdam.pdf)が参照されているにもかかわらず、件数の増大、基金の枯渇、事務処理の遅延といった、当時も既に明確に指摘されていた制度運用上の問題点を無視して結論を誘導している。このように、当該論考は制度導入に向けての現実的な問題点についての検討が不十分であり、論旨は説得的なものと解されない。