預り金に関する規制

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日弁連では、不祥事対策として、預り金等の取り扱いに関する規程の改正を検討しているようです。

主な内容は、預り金口座の所在を弁護士会に届け出ることと、弁護士会への苦情が一定回数に達すると調査ができるようにする、といった点です。

 

預り金口座の規律に関する問題点

預り金に関する規律を強めること自体は必要でしょう。

ただ、日弁連の規制案は、一般的な預り金口座に対する規制のみです。特定の依頼者からの預り金を管理する口座(特定専用口座、いわゆる後見人口座や破産管財人口座が当たります)については、対象外になっています。

しかし、これらの特定専用口座でも億単位のお金を預かり保管することは普通に有り得ることですし、横領の対象となる危険性は変わらないはずです。そこで、規制をしない理由はないと思います1。更に日弁連において検討すべきところです。

 

弁護士自治と不祥事対策

さて、預り金口座について一応規律はしてみても、これだけでは横領を防ぐことは全くできません。

他人のカネを預かる仕事は元々誘惑が強いものです。だからこそ、それを業としている銀行も証券も保険も、監督官庁が何かと厳しく規制をしています。

しかし、監督官庁がない弁護士業務に関しては、規律が余りにゆる過ぎやしないかという疑問があります。それで横領が頻発しているのでは弁護士自治どころではないでしょう。依頼者のカネも守れないのに弁護士自治なんて守れるかという話です。

だからこそ、例の見舞金制度を導入しなきゃならん、という議論もあるでしょう。しかし、被害の一部しか回復しないような見舞金では、弁護士への信頼は回復しません。

そもそも、弁護士団体の元締めがやることなんだから予防法務だって万全を尽くすべきでしょう。自分の足元では不祥事予防がちっともできないのに、お客さんには予防法務が大切です!なんて口をきくのは恥ずかしいことです。

あってはならないことはできるだけ発生しないように万全の努力をするというのがまずは大前提なのではないでしょうか。

そんな次第で、横領をどうしたら防げるのか根本的に考えなければどうしようもない、と常々思っています。いや、弁護士が集まって本気で知恵を出せば、もっと実効的な制度を作れるんじゃないか、とは思うのです。

 

仕組みを考える

少々頭が沸いて来ましたので、話を変えます。

例えば、世の超一流といわれる経営者であれば、経営上発生する恐れのある不祥事を予防することにも細心の注意を払っているものです。

人は誰でも単純なミスを起こすことがあります。また、してはならないと知りながらも、つい魔が差したように不正を行ってしまうということがないとも限りません。こうしたミスや不正を防ぐためには、複数の部門や人が関わるダブルチェックのシステムが働くようにする必要があります。2

色々意見は聞くのですが、名誉会長の凄いところは、「みんな善人なのですが、つい魔が差してしまうことがある。だからこそ、それをさせてはならない。罪をつくらせてはならないからこそ、ダブルチェックを行うのです。」3という見方をしている点にあります。

私は人間がなっていないので、横領する弁護士は死んでしまえと思ってしまうのですが、そういう情緒的な反応をするのは良くありません。今、善人であったとしても、道を踏み外してしまうことはあるということなのでしょう。

カネの出入りは複数の人が関わるようにすべきである、というのは全くそのとおりであると思います。

 

手を尽くしたのか

そうしてみると、例えば、成年後見人や破産管財人も、単独で選任される運用が一般的かと思いますが、複数の弁護士をできるだけ関与させるようにすれば横領の危険性は相当減るはずです。

特に、不祥事発生時に容易に被害回復できないレベルの財産を預かる業務であれば、まず、そのような仕組みを整えても良いのではないか、増えた弁護士を有効に使えば良いのではないか4、ということは思います。

更に踏み込めば、預り金を弁護士が保管すること自体をできるだけやめた方が良いので、第三者預託の制度を整えるべきです。制度を運営する費用が出ないとか、守秘義務の問題があるという理由で技術的な困難があると日弁連では考えているようですが、もはやグダグタ言っている局面ではありません。

なお、法曹人口の増加が不祥事多発の原因だという議論もあるかと思いますが、人のお金を預かる業務の持つ本来的な危うさは弁護士人口の多少に関わらないので、より根本的な対策が要求されることに変わりはないと思います。

 

漂流する日弁連

本気で弁護士業界全体への信頼を回復しようと考えているのであれば、先にすべきは、できるだけ横領が生じないようにする仕組み作りに取り組むことではないのでしょうか。今の日弁連での議論は、順序が逆です。

事前にマスコミにリークして見舞金制度導入を派手にブチ挙げたりしていたようですが、何てことはない、別に被害が全部救済されるわけではないですよ、ということになると、この団体は一体何をやろうとしているのかと思います。

今の日弁連は、定見も無く、易きに流され、漂流するが如きです。それは、もはや独立でもなければ自治でもありません。

都合の良い時だけ弁護士自治を持ち出すのは止めて、本当に情けない限りですが、これ以上社会に迷惑を掛けないために何をすべきか、まずは良く考えるべきです。

 

 



  1. 既に、福岡県、岡山の各弁護士会ではこのような特定専用口座についても届出義務がある模様である。 

  2. 稲盛和夫『京セラフィロソフィ』595頁(サンマーク出版、2014) 

  3. 前掲書597頁 

  4. ただ、成年後見に関しては、件数が激増して人材の確保が困難であるという問題があるかもしれない。