弁護士費用とお金の話

弁護士は、顧客から依頼を受けて法律事務を扱います。これは、法律的には「委任」という類型の契約とされます。

現代では、弁護士への委任については、通常は報酬が発生するものと理解されています。これは、弁護士の仕事が専門職化したことの帰結です。しかし、委任契約に基づく事務の遂行に伴い、報酬を受領するということは歴史的に見ればそれほど当然のことではありませんでした。

「委任は無償を原則とする、という思想は、沿革によるものである。ローマ法では、知能的な高級労務は対価と結びつくのに適さないと考えられ、委任は無償契約とされた。」(我妻栄「債権各論中巻二」)。つまり、委任事務の遂行は、沿革的には営利を目的とするものではなく、お金の獲得は本来的な行動原理ではなかったということです。

このことは、現代において弁護士業務に携わる我々に次のようなことを示唆しているものと理解しています。

1.報酬の大小で事件を選ばないこと

報酬が大きいからといって悪事に手を染めることは許されないのは当然ですが、依頼者の言い分をよく聞いても、やはり賛同できないようなら信頼関係を築けないため、報酬が大きくても委任を受けるわけにはいきません。また、逆に、報酬が小さい事案であっても、長らく信頼関係が成り立っていたり、弁護士としての技能を頼っての依頼であって、どうしても自分がやらなければならないというような事案なのであれば、積極的に引き受けるべきであると考えています。

2.適正妥当な費用を定めること

事件を処理するに当たり一番大切なことは依頼者から喜ばれるかどうかということですが、それと共に、個々の依頼者について事案に応じた適正妥当な報酬を決める事は大切なことです。勿論、依頼者の得た経済的満足が大きければ報酬はそれに比例して大きくなるべきでしょうし、そうでなければ報酬が少なくなるのはやむを得ません。現在、弁護士報酬は自由化されていますが、従前一般的に通用していた報酬規定の範囲に収まる報酬金額を定めることをもって、適正範囲の目安としています。

なお、報酬をいかに決めて、どのようにご負担をいただくかは、個々の事案により全く異なるため、相手方からの回収が困難な事案であれば報酬金を適宜減額するとか、依頼者に報酬の支払いが難しい事情があれば分割払いに応じたり、法テラスの代理援助制度の利用を勧めるなどして、出来る限り依頼者の負担感を和らげられるような配慮をするよう心がけています。

3.堅実な事務所経営を心がけること

弁護士の仕事を必ずしも営利を目的としないものとして実践していれば、端的に、仕事をしていても儲からない時期が生じることはあります。そこで、我々は、常日頃から堅実な事務所経営を心がけるようにし、経営上の問題に気を取られて本来の業務に集中できなくなることや、本来は受任すべきではない事案を受任したりすることのないよう注意を払っています。

タイトルとURLをコピーしました