完全成功報酬制を採用しない理由

最近は、事件の受任について着手金が0円ということをアピールしている弁護士も目立つようになりました。例えば、債務整理の引き直し計算を無料で引き受けるとか、交通事故の事件に限り着手金は無料、というようなものです。

これらの事件は、おそらく、確実に経済的利益が得られるためにそれでも良い、という判断なのだと思います。

しかし、わたくしは、着手金が全く発生しない完全成功報酬制による事件の受任は原則として行いません。

これには相応の理由があります。

タダで弁護士に事件を頼むことができれば、確かに依頼者は頼みやすくなりますので、事件化する件数を増やすことが出来ます。

しかし、あまり件数が増えれば、弁護士の処理能力の問題もあって一件一件の事件にちゃんと取り組めなくなる可能性もあります。

また、世の中一般に考えてみれば、何でも事件化されてむやみやたらと紛争が増えるということは必ずしも望ましくないことだともいえます。

そして、完全成功報酬制は全くタダなのではありません。事件が終わったときには弁護士に報酬を払うという定めになります。

このような事件の受け方をすると、受任する弁護士がタダ働きとなるリスクも高まりますので、それを反映して事件解決時の報酬金の基準が従前よりも高くなるという問題点があります。これは、結果として依頼者の利益になるのか疑問がないわけではありません。

さらに、完全成功報酬制で事件を受けると、事件の結果によって弁護士の報酬は大きく左右されることになります。これは弁護士が有利な解決に向けて努力するインセンティブになるのであれば良いでしょう。

しかし、その度合いが強くなりすぎれば、よからぬ行為への誘因となりうるおそれがあります。具体的にいえば、勝訴するために証拠を偽造するとかといった、何が何でも勝つためにいかなる手段をも用いかねないという問題です。

普通の弁護士であればそのようなことはやってはならないということは十分理解していると思いますし、我々も当然そんなことはしませんが、弁護士業務への信頼性を確保するためには、起こりうるリスクは出来るだけ排除しておくに越したことはないといえます。

なお、依頼する側も無料で事件の依頼をできるとなると、あまり真剣に事件のことを考えなくなってしまうという傾向があります。

そうなると事件処理に支障を来すということもあり得ますので、誰のためにもならなくなります。

このように、完全成功報酬制は、一見弁護士への依頼の壁を低くして優れたシステムのように見えるのですが、実は非常に多くの弊害を併せ持っています。従いまして、わたくしは、完全成功報酬制による事件の受任を原則として行わないことにしている次第です。

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