恐怖の刑事司法改革

法制審議会の議論がまとまったとのことで、取り調べの録音・録画を裁判員対象事件と検察の独自捜査事件について義務化することや、通信傍受の範囲の拡大、司法取引などが導入される見通しのようです。

しかし、これではおよそ前進したとは言えないどころか、いわゆる毒まんじゅうを食わされたようなものです。法制審議会の委員のうち、弁護士の宮崎誠氏と小坂井久氏に関しては、何をしに行っていたのでしょう。色々とお考えはおありなのでしょうが、ご両名はこのような内容であれば机を蹴って会議から出て行くのが本来の役割ではないのかと、問い糺したくもなるところです。

 

問題点を指摘しておきます。

取り調べの録音・録画は、裁判員対象事件と検察の独自捜査事件については既に試行されています。(最高検察庁・取調べの録音・録画の実施状況)

最終案はこれを追認するだけですから、そういう意味では前進してません。全事件の2パーセントくらいにしかならないようです。しかし、自白の強要による冤罪事件は、何も重大事件や特捜事件に限らず、普通の事件でもしょっちゅう起きていることです。そして軽微な事件なら、罪を認めて釈放してもらおうとかという動機が働きかねないこともありますから、冤罪の恐れが小さいわけではありません。

 

 

そして通信傍受の範囲も拡大されそうです。

ここも安易に認めると、何でも組織的犯罪だとかと名目を付けられて、傍受をされやすくなる危険性が高くなります。基本的には通信の秘密が害される範囲を広げるということですから、犯罪とは無縁の人にとっても決して良いことではありません。

 

さらに司法取引の導入は重大な問題です。

司法取引の内容としては、他人の犯罪を認めるのに協力した場合に取引を認めるという内容のようです。これは引っ張り込みの危険があるということは容易に想像できます。どういう場合に使われるかというと、狙い撃ちしたい奴が居る場合に、周囲の人間を適当な罪名で引っ張って身柄拘束し、苛烈な取り調べをして、ターゲットが罪を犯したことをでっち上げさせることが想定されます。例えば、贈収賄や選挙違反で容易に使える手法だということになります。

 

贈収賄であれば、気に入らない政治家がいれば、それを追い落とす目的で周囲の人間を贈賄罪でしょっ引いて、賄賂を贈った事実をでっち上げて司法取引をして、それを基に収賄の容疑で政治家を逮捕するのが簡単になります。仮に収賄の事実がなく無罪になったとしても、そうなれば政治生命は事実上絶たれるでしょうから、政治家を失脚させる目的でこの制度を使えば、目的は容易に達成できます。

選挙違反事件でも同様です。選挙違反事件となると、関係者を一網打尽に逮捕して、一律に接見禁止をして、弁護人が接見をしようとしても時間は30分までとか接見制限をしてくるような運用をして苛烈な取り調べを行っているのが通例ですが、関係者に司法取引で選挙違反を認めさせてしまえば、狙い撃ちした政治家を連座制で失脚させることが容易に達成できます。

 

そして、狙い撃ちの危険は別に政治家に限らず、有名な人や目立つ人、世間から気に入られていない人、検察・警察に嫌われている人、あるいは政府の施策に何かと楯突く人、などであれば常にそういう危険があり、その危険が高まることになるのです。これは極めて恐ろしいことです。

しかも、そういうことが可視化の対象外であれば、更に容易です(例えば、警察扱いの贈収賄や選挙違反)。

 

刑事司法の問題は、自分は刑事事件とは無縁だから関係ないというのではなしに、よく想像して考える必要があるかと思います。

電車に乗る人なら、痴漢と疑われるかもしれません。車に乗る人なら、自分に落ち度がなくとも人が飛び込んでくるかもしれません。そんな場合に突然犯罪の嫌疑を掛けられて身柄拘束されることは、誰でも起こり得ます。そういう状況を想定してみると、どのような刑事司法制度であるべきか考えるのは難しくないと思います。変な制度が導入されることには警戒しなければなりません。

 

 

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