書評「災害復興法学」

東日本大震災の発生から3年半以上が経過しましたが、未だに震災に伴う種々の問題が収束しているようには見えません。

 

特に宮城県の沿岸地域は、私にとって馴染みの深い場所でした。それだけに、地震発生直後、仙台空港の周辺が黒い波に飲み込まれる映像を見て只事ではないと直感し、しばらく無力感に打ちのめされていました。

言い訳すると、私は気力が沸かないまま何もできませんでした。しかし、多くの弁護士が震災後の現地に赴いて、震災に関する法律相談に当たりました。困難に負けずに取り組みを続けている方々には敬意を表したいと思います。

 

前置きが長くなりましたが、震災後の弁護士の活動と、それに基づく政策提言及びその実現の経過をまとめた本が出版されています。本書に表れている著者のアイデアについて特筆すべき点は、二点あろうかと思います。

 

第一に、震災関連の法律相談で得られた膨大な相談内容をデータベース化することで、各地で必要とされるリーガルニーズの内容を汲み取ろうとした点にあります。震災に起因する法的紛争の内容は、都市部か、沿岸部か、あるいは原発事故の影響が生じた地域か、等々の場所的条件によって大きく異なります。これらをデータベースによって数値化し、その分析を行うことによって、各地でどのような法的な手当が必要とされているか視覚化することに著者は取り組みました。そのままであれば、法律相談の結果は単なる相談票の山にしかならないのですが、これを見事に活用しています。

 

第二に、分析結果を政策提言に活用することで、具体的な政策の実現につなげた点にあります。東日本大震災の後に、新たな制度設計がなされた事項は多岐に渡ります。その中には、相続放棄の熟慮期間の延長や原発事故の時効延長といった既存法の修正がなされたものもありますし、原子力損害賠償紛争解決センターなどの新組織の設置に至ったものもあります。データベースの分析結果に基づいて、そのような制度設計の基礎となる立法事実を分かりやすい形で提供したことが、適切な政策の実現に大きく貢献したということが本書からはよく理解できます。

 

近時、弁護士業務の拡大ということがいわれていますが、具体的にこうしていけば良いのだ、という姿を想像するのはなかなか困難なことのように思うのです。しかし、本書の著者のように、現代的な発想によって、これまで十分に汲み上げることが難しかった一人一人の声に基づく政策提言を行い、それを現実化していったことは、新たな分野を切り開く取り組みとして、同じ仕事をしている者としては学ぶべき点があります。

 

震災から暫くの時間が経過して、景気が回復したとか、オリンピックを誘致したとかの明るい話題が出されることで、世間は現実から目を反らしがちになっているかもしれません。但し、我々は浮かれている場合ではないように思うのです。復旧はまだ十分ではなく、原発事故の影響も収束していません。今なお最優先に取り組むべきことが存在すると改めて思います。