残業代バブルは生じるのか?(1)

帯広では、地元の弁護士有志が労働基準監督署と連携して、個別労働紛争について弁護士への無料相談を案内してもらう枠組みを作っている。

ただ、今までのところ、その相談実績はなかなか少ない実情ではある。

何故なのか考えているのであるが、個別労働紛争に関しては、労働局ではあっせんの手続1も自前で持っているので 、そちらを勧めることもあるのかもしれない。

 

あっせん制度の良し悪し

以前、当地の労基署長のお話を聞く機会があったが、帯広の場合は過去3年間であっせんの申し立て件数は80件くらい、うち40件があっせんにより合意成立して解決している、といった話であった。

意外に成立率が高い。

ただ、具体的な解決例となると、労働者側の弁護士が聞いたら卒倒するような内容で終わっている例もあるようなのである2

要するに、あっせんが成立しているケースでは、金銭的解決の水準が非常に低いことがある。逆に言えば、異常な申立てでない限り、使用者側はあっせんで何とか解決した方が得なことも多いであろう。

もちろん、民事的な紛争を双方が合意して解決しているのだから私的自治でしょ、という考え方もありうるのだが、法を基準とした解決が図られているのかとなると、いささか疑問が残る。

 

司法的解決の課題

そうであるとしても、結構な割合であっせんが成立するのは何故か。やはり、労働事件に関しては、司法的解決は「うまい」のだけれども、圧倒的に「遅い」「高い」という問題に帰着する。

そうすると、「早い」「安い」に出来ないか、ということにはなる。

「早い」ということに関しては、労働審判制度が導入された。スピード感もあるし、金銭的解決の水準も悪くない。一連の司法制度改革のうちでも、数少ない成功例だと褒められるのも理解できる。

「安い」ということに関しては、弁護士費用の問題がある。これは、今のところ、弁護士が増えたから安くなったわけでもない雰囲気を感じている。

 

弁護士関与の問題点

近時の弁護士による労働事件への関与について、二つほど問題があると認識している。

一つ目は、成功報酬制が流行っていることである。

残業代請求などの労働事件で、成功報酬制の事務所も出現するようになった。この場合、弁護士側のリスクがあるので、トータルの弁護士費用は高めになりがちである。タダで依頼できれば頼みやすくはなるが、依頼者の手取りは減るかもしれない。ただ、これは最終的にはバランスの問題ではあるのだろう。

もちろん、使用者側から見た場合には、今までだったら顕在化しなかった事案が掘り起こされる、という問題がある。

二つ目は、労働事件が専門だとかうたっている割にはずいぶん「マズい」解決してるなあ、といった事務所も一部にはあることである。

それでも、残業代請求に特化しているとかガンガン広告を出して、盛況なこともあるようだ。もちろん、マズくていいから早く解決しろという依頼者もいるから、そのようなスタイルもありうるのだろう。市場のニーズというのはそういうものだ、という感想である。

 

この話題、もう少し広げて考えてみることにしたい。(つづく)

 

 



  1. 個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき、平成13年10月から導入された制度である。参考までに中央労働委員会の関連ページのリンクを掲げる。http://www.mhlw.go.jp/churoi/assen/index.html 

  2. 濱口桂一郎・高橋陽子「労働局あっせん、労働審判及び裁判上の和解における雇用紛争事案の比較分析」(労働政策研究報告書No.174、2015年)によると、金銭解決時の中央値は「あっせんは156,400円、労働審判は1,100,000円、和解は2,301,357円であり、後者ほど高額である」ということである。各手続の雰囲気が出ている数字のように思う。但し、この研究では残業代請求の事案は対象とされていない。http://www.jil.go.jp/institute/reports/2015/0174.html