残業代バブルは生じるのか?(2)

前回の話の続きである。

ここ数年、残業代バブルが来るといわれているが、実際はそうでもない雰囲気である?1(なお、ここでの「バブル」とは、特定の事件の処理に多くの弁護士が群がる現象、といった程度の意味としておく。)。

なぜだろうか。

 

過払い事件と残業代事件の比較

とりあえず、過払い事件に関する事情を検討して、それと比較してみると分かりやすいのではないかと思うので、そうしてみる。

過払い 残業代
依頼者 弁護士への依頼後に債務の支払を止めれば生活状況が改善する。過払金を取り返すのを待てばよい場合も多い。 弁護士への依頼後も収入確保を要する。生活に困る場合もあるので、少しでも早く回収したい場面も多い。
人的関係 貸金業者との人的関係は薄いため、容赦なく請求できる。 勤務先との人的関係が濃いため、請求をためらうことがある。
請求額 返還総額が1000万円を超えることも普通にある。 100万円前後だとかそれ以下のことも多い(個人の感想です)。
立証方法 取引履歴の取り寄せが容易になり、請求額を明確にできる。 労働時間の立証が難しい場合があり、残業代の算定が容易ではない。
回収可能性 貸金業者には資金力があり強制執行して回収もできる(今は違う) 中小零細企業では資金力が弱く、無い袖は振れないの抗弁が出てくる。

 

バブル発生の条件

比較してみると、やはり、過払い事件は際だった特徴を有する事件類型であった。そりゃあバブルも発生するというものであろう。

まとめると「請求額が大きく、立証が容易であり、回収が可能な事件が頻発する。」というのがバブル発生の条件であるように見える。

残業代請求は頻発する類型の事件ではあるが、請求額が小さかったり、立証が容易でなかったり、また、回収が難しかったりする場合もある。

もちろん、多少気合いを入れて争えばそのような困難もクリアできようが、常に気合いを入れ続けるには限界というものがある。

 

具体例

示談代行が一般化する前の交通事故案件は、それに近いものがあったのではないかと推測している(ただ、立証は過払い案件の方が易しいであろう。)。

主に立証が容易でないことが理由で、それほど活発化しない類型の事件は多いと思う。

特に、国が相手だと、むやみやたらと抵抗してきそうなので、アスベスト被害の事件などもそれに特化して事件処理数を伸ばす事務所は多少出て来るかもしれないが(厚労省は訴えてくれといっているようだ)、限定的ではあるのだろう。

そもそも、生命身体に関わる案件の処理が「バブル」と呼ばれるようなことになるのは、あまり宜しいことではないということはある。

 

社会変化による影響

ところで、判例や法律の変更により、社会の情勢は変化することがある。このような変化が、いつ、あるいはどのようにもたらされるかは重要である。

過払いでいえば、昔からそのような請求が成り立つことは認識されていたが、20年前には真面目に請求していた弁護士がどれだけいただろうか。それが、高金利が社会問題化し、有利な裁判例が積み重なり、行政による監督も立法での規制も厳しくなり、ついにバブルと呼ばれる状況にまで至ったのであった。

ちなみに、残業代請求に関しては、現在は消滅時効の期間が2年である。

しかし、今後、これが他の債権と同様に5年になった場合にはどうなるだろうか。請求額の大小だけで事件の流行が生じるわけではないが、もしかしたら残業代請求がじわじわ流行ってくる可能性はあるかもしれない。

 

まとめ

以上、雑な議論ではあるが、おそらく残業代バブルは当面発生しない。

発生するのだとすれば、請求額が大きくなるか、立証がとてもしやすくなるか、といった方向で何らかの変化があったときだろう。

過払いバブルをめぐる社会変化から教訓めいたものを読み取るとすれば、おかしいと思うことはおかしいと主張し続けることが在野法曹の一つの使命なのではないか、ということであった。当職も、業務の内外を通じて社会変化の動向を良く観察しながら、気が付いたことはきちんと指摘するよう心掛けたい。

 

 



  1. この点を考察したものとして、次のブログ記事がある。件数は高止まりしているが、バブルという程じゃないよねということのようである。http://keisaisaita.hatenablog.jp/entry/2017/09/20/200912