債務不存在確認訴訟に強い弁護士

○○に強い弁護士!といえる程度に何か強い分野はないか考えてみたのですが、未だ勉強することが尽きないように感じる身としては、なかなか自信を持って強さをアピールとはいきません。

酒に強い!(比較的)とかなら思い浮かびますが、職務と関係なさそうです。

さて、訴訟となれば、勝った負けたは事件の筋もありますし、代理人の努力の次第もあるとは思いますが、強い!とはいえないものの、たまに活用している訴訟分野があることに気が付きましたので少しまとめてみます。

 

貸金業者と債務不存在確認訴訟-消滅時効

多分バルクで買い叩いて来るんだと思いますが、時効に掛かった債権を集めて、とりあえず債務者に請求してみるということを行っている貸金業者があります。もちろん、そのような事案の相談があれば、とりあえず時効援用通知を出しておきなさいと指南し、簡単なひな形をお渡しして出してもらっています。

たいていはそれでおしまいです。

問題は、相談者が突然請求が来たことにびびって少しでもお金を払ってしまった、というような場合です。これは手紙で請求されるだけでなく、取り立てに人をよこすという場合もあるようで、全くひどい話です。

こうなると、消滅時効の援用は信義則上許されないという判例がありますので(最高裁昭和41年4月20日判決)、貸金業者は請求をやめません。

誠にけしからんことです。一般人にそんな判例の知識なんかないことが普通ですよね。

 

そこで、なお消滅時効は援用できないものかと考えてみるわけですが、上記判例の根拠は信義則(民法1条2項)ですから、個別の判断はあり得るんじゃないか、と思い至ります。

そのような事案で具体的な事情を探ってみると、たいてい時効であることを知らないというばかりではなく、突然取り立てがやってきたのでびっくりして払っただとかという事情は普通に出てきます。

こうして、場合によっては、債務不存在確認訴訟を起こしてみることに行き着きます。

ただ、債務不存在確認訴訟の管轄は普通に考えると被告の住所地ですから(民事訴訟法4条1項)、取り立ててくる貸金業者が札幌とかにいる場合には面倒です。

たまに札幌に遊びに来た内地の友人から「北海道に住んでるんなら来い!」とお誘いを頂くこともあったりしますが、帯広からは片道3時間は要するのでわざわざ札幌まで行ってられません。

 

更に考えてみると、消滅時効を援用すると時効完成後に弁済したお金は理屈の上では不当利得になりますから、これを返せという訴訟なら、いつもやっているとおり、持参債務の原則(民法484条)で義務履行地(民事訴訟法5条1号)である自分の住所地で起こせます。

以上二つの請求は訴えの客観的併合の要件に反していませんから、併せて自分の住所地で訴訟を提起してしまえばよい、ということになります(民事訴訟法7条)。

 

さて、訴訟を起こしてうまくいくかということに関しては、これは事案によるかとは思います(本気で反訴されることはあり得る。)。

しかし、貸金業者にしてみれば、そんな訴訟に勝っても得をしませんから、真面目に応訴するモチベーションは乏しくなるはずです。

そこを狙いつつ、更に、このような貸金業者はサービサー法3条(債権管理回収業は許可制)に違反しているとか、弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)に違反しているとか主張していると、ゼロ和解くらいはできる場合もあります。これで一件落着という場合もあるでしょう。

 

貸金業者と債務不存在確認訴訟-残債務額の食い違い

貸金業者が取引履歴を全部開示しないにもかかわらず残債務があると主張してくる場合や、引き直し計算をしてみたものの残債務額の認識が食い違っているという場合があります。

取引の履歴がわからないのに債務が残っているとは支離滅裂に思うのですが、このような場合も、債務不存在確認訴訟によることがあります。

推定計算すると過払いが生じることを併せて主張してみたり、あるいは自宅に担保を付けていればその登記の抹消請求の訴えをくっつけるなどして(民事訴訟法5条13号)、自分の住所地で裁判を起こせます。

これもやはり貸金業者側は真面目に応訴するメリットに乏しい訴訟ですので、程々に解決を図ることができることはあります。

 

そういうことで、債務不存在確認訴訟に強い!とまでは言い切れないのは、ガチンコで争って判決を得るところまで行かないからですが、そう多く使える手段ではないとはいえ、債務不存在確認訴訟については活用できる局面もあるように思っています。

 

交通事故と債務不存在確認訴訟

なお、債務不存在確認訴訟が使われる他の類型について、少し触れておきます。それは交通事故の損害賠償請求の事案です。被害者側の要求が過大であること等を理由として、加害者側から訴えてくることがあります。

このようなケースでは通常は加害者側に損害保険会社等がついており、訴えにより賠償の処理を早めることが主眼にあるようです。

一部の共済などにおいては、話しにならないと見るや唖然とする早さで債務不存在確認訴訟を起こしてくることがあったりするので、弁護士である当職ですら驚くことがあります。

この場合、濫訴的なものでない限りは、被害者側は訴訟手続の中で損害額を定めるための主張をしつつ和解するとか、あるいは反訴を提起するということにはなるでしょう。

ただ、この類型で注意しなければならない点は、被害者いじめだ、という反感が生じることにあると思います。

このような訴訟を起こされた被害者側は、被害を受けたのに訴えを起こされるなんてひどい話だ、という思いを持つことになり、余計に事案がこじれかねません。

私も損害保険会社の仕事をしていたことがありますが、先輩方からは、交通事故で債務不存在確認訴訟はできるだけ起こすな、といわれたことがありました。加害者側としては、被害者側を十分に説得した上で賠償を行うことが本来の筋ではありますから、余程のことがない限りいきなりそのような手段に出るべきではないのでしょう(もちろん「余程のこと」が生じるケースもありますが。)。

 

そういうことで、またしても債務不存在確認訴訟に強い!とまでは言い切れないのは、この種の訴訟にいきなり踏み込むことには躊躇するからなのですが、もし加害者側の立場で損害額を確定する必要がある場合、一般的には、まずは話し合いをベースにした民事調停の手続によるべきであろう、というようには考えるところです。