新時代の弁護士マーケティング論

はじめに

最近、弁護士業界も預り金を横領するなどの不祥事が多発しているのですが、これに対してある日弁連の偉い人が「エリート意識を捨てるべし。ハッピーリタイアできるよう若いうちから老後資金をためておけ。」との発言をされたとの報道があったようです。

私はこれを聞いて、余りの現状認識の失当ぶりに驚きを通り越してしまいました。

えっ、エリート意識を捨てろって、我々ってノブレス・オブリージュを体現すべき存在じゃなかったのかしら?だからこそ今の社会では見向きもされないような仕事にも少しは向き合ってきたのに…等々思うと複雑な思いです。

そこで、弁護士がエリート意識を捨て去り、その業務を完全に営利の所為として捉え出したと仮定した場合、どのような方向に向かって行くことになるのか考えてみました。なお、当たり前のことではありますが、このような行動を各々の弁護士に慫慂するものではあり得ないことを断っておきます。

 

営業宣伝活動

まずは広告戦略ですね。

必要な広告代はしっかり掛けましょう。いきなりテレビCMまでは出せないですけど。広告を代行してくれる業者とかもいるみたいだし、こういうところに頼んだら楽で良いかな。えっ、その広告屋さんって元ヤミ金の人だったの?構わない構わない、黒い猫でも白い猫でもネズミを捕まえるのは良い猫だとかいうでしょう1

事務所は豪勢に仕上げてみましょう。ほら、派手なネクタイの先輩から借金すると良い仕事できるって聞いたんですよね。公庫に行けばとりあえず500万借りられるらしいですし。

えっ、奨学金とか貸与制の借金がある?いやいや、これからマーケティング力を駆使してしっかり稼げば問題なし2

やっぱり見た目のハッタリは大事ですよ。多少家賃が高くても、駅前に事務所構えるとか重要ですよね。

えっ、扶助や国選やったり会務をやって地道に顔を売れですって?3

だって実際仕事なんて来ないでしょ。チラシ撒いたり押し出しの強いウェブ作ったり派手なアフィリエイト打った方がお客さん引っかかるじゃないですか、今更何をおっしゃるんですか。

 

公益活動への取組

公益活動といえば法テラス。でも、法テラスの事件は報酬も低いし、お客さんに恵まれないし、時間ばっかり掛かって効率悪いですよね。ということで登録をやめましょう。

きっと、責任感のある弁護士か、食うのに困った弁護士が代わりにやってくれますよ4

空いた時間は自分の営業に費やせば顧客獲得に繋がって、一石二鳥ですね。

弁護士会の仕事もあるけど、ビジネスにつながらないじゃないですか。だったら逃げ回っちゃいましょう。派閥のあるところなら、その仕事もめんどくさいだけなので逃げ回りましょう5

弁護士会に高い会費を払っても、仕事をくれる訳じゃないから、ビジネスのためにならないんですよ。しかも、高い会費が、憲法守れとか自衛隊がけしからんとかっていう政治的な活動に使われちゃ迷惑です。うちの経営者団体なんてマジで自主憲法制定とか言ってるんで立場が無くて困るんですよね。考えが合わない人から会費取る方が憲法違反じゃないのかしら?6

もう、弁護士自治なんかやめちゃって、監督は法務省か裁判所にでもやってもらえばいいでしょ。そっちの方が懲戒が確実だし、会費だって安くなるだろうしね7

 

事件の受任について

とりあえず無料相談をアピールして事件を集めましょう。

えっ、今時有料相談なんて成り立つんですか?もう時代遅れですよね。事務員に電話で相談内容聞き取らせて、金にならないようなら断りましょう。ビジネスなんだから、ただ働きを避けるのは当然ですよね。

ビジネスになる事件だけ選んでお客さんに来てもらって、弁護士は委任契約書作るところで出てくるようにしましょう。話の聞き取りなんて弁護士がする必要ありませんよね8

弁護士報酬は自由化されたんだから、昔の日弁連基準とか無視して出来るだけ高く設定しましょう。過払い報酬3割4割は当たり前だし9、簡単な私選刑事の報酬100万200万なんて当たり前ですよね10

ヤメ検の大物弁護士にはヘリコプター買って節税するくらい凄い報酬もらってた人もいましたよ。一流のサービスには一流の費用が掛かるということにでもしておきましょう。

取りはぐれがないように預り金を大きく取っておくと良いでしょうね。これはビジネスで、広告代もかかるし、借金も返さなくちゃいけませんから。

お客さんが弁護士に頼むのなんて一生に一度か二度かしかないんだから、値段が高いかどうかなんてどうせ分かんないよね。とにかく委任契約書巻いちゃいましょう。これで一件クロージング、と。

経営の観点からは受任率が勝負。受任率を高めるために、事件の見通しは甘く伝えましょう。お客さんにはどーんと大舟に乗った気分になってもらえばOK。細かい見通しを、ああでもないこうでもないなんて詳しく説明してたらお客さんも不安になっちゃいますもんね11。負けたら裁判所が悪いってことで12。受任率を高めれば売上も増えますし。

委任契約書で報酬をしっかり決めて、後で文句を言われたら委任契約書を楯に抵抗しましょう13

えっ、依頼者が報酬を払ってくれない?そしたら、裁判起こして取り立てるしかないですね14。法律家相手に契約を守らないとかあり得ないじゃないですか、執行も辞さずに1円たりとも負かりませんよ。

 

事業拡大

こうしてお金が貯まってきたら、事業を拡大しましょう。

まずは法人化ですかね。法人へは貯まったお金でしっかり出資をしておきましょう。

えっ、出資が1000万以上でなければ最初の2年は消費税がかからないんですって?税理士さん、そこはちゃんと教えてくれないと!15

そして支店を展開しましょう。

でも、地方の弁護士会は、入会には推薦人がいるとか審査が必要だとかいって進出に抵抗するんです。強制加入団体なんだから、入会できなきゃ営業できない訳だし、ごちゃごちゃ言うなら訴えるしかないでしょうね。だって、営業できなきゃ損害出るのは予見できるでしょ?16

さらに取り扱い分野を拡大していきましょう。

とりあえず、離婚も交通事故も労働問題も全部専門ってことで。本当は専門でも強くも何でもないんだけど、そこは内緒にしておいてもどうせお客さんには分からないから大丈夫。とりあえず「専門」とか「強い!」ってアピールしておけば、事件が集まって自然に専門化して強くなれちゃうから、問題なし、と17

 

他業種への進出

弁護士業務は構造不況だから、元手が出来たらあとは部下の弁護士にでも丸投げして、自分で会社立ち上げてビジネスなんかしてみるのがいいかもしれないですよね。弁護士としてはダメダメでも、ビジネスだったら弁護士の肩書きの信用を使えちゃったりするじゃないですか18

ほら、廃業しちゃった立派な先生も、恒産無くして恒心無しとかおっしゃって、旅館の他に貸しビルやってたって聞きますし。

手始めに、独立開業する弁護士に貸事務所作ってみたり、開業コンサルティングとかやってみるといいかも。

えっ、そういうのを「ヒヨコ食い」って言うんですか?何言ってんですか、将来のある若者のお手伝いをしているだけですよ!

 

さあ、じゃんじゃん儲けて、みんなで目指そうハッピーリタイア!

 

まとめ

このような弁護士こそが、ハッピーリタイアできる時代なのでしょう。

しかし、ハッピーリタイアはできても、成仏できるか分かりませんよね。それとも、地獄の沙汰も金次第ということにでもなるのでしょうか。

弁護士に期待される役割には時代による変化もあるでしょうし、環境の変化する中でも生活を安定させていくことは、業務に集中する上で重要なものと理解しています。ただ、そうはいっても、長い歴史を有する職業には変わらぬ核心があるのではないでしょうか。

弁護士としていかに生きるべきかということをどのように突き詰めるのか、私は自分の気力と体力と資本とが続く限り、よく考えて生きて行きたいと思います。

 



  1. 弁護士広告の禁止は解かれたが、なお、「弁護士の業務広告に関する規程」があり、広告の方法態様については一定の規制がある。また、非弁護士との提携は許されない(弁護士法72条?74条)。 

  2. 資金繰りに窮して預り金を横領するという事例が増えていることもあるが、弁護士は破産すると資格を失うので(弁護士法7条5号)、事業のバランスシートには常に気を配る必要がある。 

  3. 諸先輩方からは、「国選と扶助は弁護士活動の原点だから大事にしなさい。」とか「いきなり鯨が捕れるなんて思っちゃいけない。まずは小さな魚が捕れるよう努力しなさい。」などの教えを受けたものである。 

  4. 民事法律扶助や国選弁護などの日本司法支援センター(法テラス)に関する業務は、法テラスとの契約によるものとなったことから、契約をしないことはできる。もっとも、公益活動に参加し実践するよう努めることは基本倫理である(弁護士職務基本規程8条)。 

  5. 弁護士会との関係では、正当な理由なく委嘱事項を拒絶してはならない(弁護士職務基本規程79条)。 

  6. 法の支配が確立しなければ弁護士の存在意義もないから、憲法問題への取組にも対内的な理解が広がって欲しいと切に思う。なお、最判平成8年3月19日(南九州税理士会事件)を参照。 

  7. 監督官庁からの圧力で弁護活動が阻害された戦前の歴史は絶対に忘れてはならない。大事なことなので二度言うが、絶対に忘れてはならない。但し、会費については議論の余地はあろう。 

  8. 委任契約書については作成義務がある(弁護士職務基本規程30条1項)。また、弁護士は法的判断をするのが仕事という考え方もあるが、直接聞き取らないと判明しないことも多々あるから、極端な効率化は疑問なしとしない。 

  9. 平成16年3月を以て弁護士報酬規程は廃止され、報酬は自由化された。しかし、過払いバブルの際にこのような高額過ぎる報酬が問題となって「債務整理事件処理の規律を定める規程」が施行され、報酬の上限規制(25%まで)がなされている。 

  10. 刑事事件については上限規制はなく、従前に比してかなり高額の報酬基準を定める事務所もあるように聞く。報酬は自由化されたとはいえ、適正かつ妥当な弁護士報酬を提示しなければならないとされていること(弁護士職務基本規程24条)からは、問題となる場合もあろう。 

  11. 受任率を問題とすると、弁護士が関与しての濫訴が多発する可能性があり妥当なものとはいえない。なお、受任の際には適切な説明をする義務があるし、有利な結果の保証をしたり、期待する結果の見込みがあるよう装ったりしてはならない(弁護士職務基本規程29条1項?3項)。 

  12. 弁護士は司法の独立を擁護し、司法制度の健全な発展に寄与するよう努めるものとされている(弁護士職務基本規程3条)。 

  13. 前述のとおり委任契約書の作成義務はあるが、その趣旨は、どちらかというと依頼者保護のためのものではないのだろうか。 

  14. 報酬請求訴訟自体は禁じられていないが、弁護士は依頼者との信頼関係を保持し、紛議が生じないように努める必要がある(弁護士職務基本規程26条)。なお、かつてのフランスにおいては、弁護士は「独立で自由な貴族的芸術家」と位置づけられていたので、報酬請求訴訟は禁じられていた(田中宏『弁護士のマインド』198頁(弘文堂、2009))。大いに留意すべきことであろう。 

  15. 弁護士は当然に税理士の事務を行えるし(弁護士法3条2項)、法令に精通するのは基本倫理であるから(弁護士職務基本規程7条)、税法上の規定なんか知るか、と言う訳にもいかないであろう。 

  16. 弁護士登録換えについては、紹介者がないことをもって進達拒絶をすることはできない(高中正彦『弁護士法概説』第3版79頁〔三省堂、2006〕)。もっとも、入会の審査は弁護士会の自治の根幹をなすものではあろう。 

  17. 特定分野に「専門」であるとか「強い」と広告すること自体は禁止されていないと解されるが、虚偽又は誤導にわたる情報を提供してはならないとされているし(弁護士職務基本規程9条1項)、その態様によっては、弁護士の業務広告に関する規程との関係で問題となる場合はあろう。 

  18. 弁護士が営利業務に従事することは自体は可能であるが、届出を要するものとされている(弁護士法30条1項、2項)。もっとも、品位を損なう事業を営んではならないし(弁護士職務基本規程15条)、営利を求めることにとらわれて品位を損なう行為をしてはならない(弁護士職務基本規程16条)。