アディーレショック

優良誤認表示の広告の問題で、東京弁護士会は、弁護士法人アディーレ法律事務所に対して業務停止2月の懲戒処分を言い渡した。弁護士倫理を維持しながら事業の拡大を図るという方向に進んで行くことはできなかったのだろうかと、改めて残念に思っている。

既に、「何をしているんですか石丸さん」という記事にて、(東弁は)受け皿が揃わない懸念があっても二の足を踏んでいるような場合ではないと述べたように、そのようになること自体は仕方がないと思っていた。

ただ、実際に業務停止の効力が発生した結果、大変なことになっている模様なので、今回明らかになった問題点をまとめておくことにしたい。

 

弁護士会の懲戒手続に関する問題

今回の懲戒処分については、処分が重すぎるという意見と、混乱を防止できなかったのかという意見が見られる。

処分の軽重に関しては、具体的な被害がないから優良誤認表示を見逃して良いということではないし、以前の処分歴もあるので、必ずしも不当とはいえない。そして大き過ぎてつぶせないというのも本末転倒である。それこそ懲戒手続が馴れ合いだとかいわれてしまう。

ただ、懲戒手続上は、業務停止により迷惑を被る依頼者を救済するような仕組みが、制度的に整っていない。この点は難しい問題である。懲戒委員会が処分を議決するまで弁護士会の執行部は動きにくいということもあるし、一方で、処分発効までにタイムラグがあれば処分逃れの対策をされてしまうことが予想される。

これまでも、業務停止等により事件の引継ぎが必要になった場合には、受け皿を探して何とかしていたと思うが、今回は容易ではないし、今後も規模の大きい事務所に万が一のことがあった場合には同様の問題は起こる。対応策を考えるべきであるが難しい問題である。

 

懲戒された弁護士法人に関する問題

アディーレに関しては、特徴的な問題が二つあると懸念している。

一つ目は、事業構造の問題である。

いうまでもなく、テレビCMやチラシなどの広告に多額の資金を投入して積極的に集客し、大規模な全国展開を図りつつ事件処理は東京に集中させるというこの事務所のビジネスモデルは、法律事務所としては際立って特殊である。

ところが、業務停止中は広告が打てず、新規顧客を得ることができない。既存顧客についても辞任しなければならない。業務停止が明けてもレピュテーション低下による影響が大きい。

そうすると、「広告出稿で顧客誘引し獲得した報酬で更に広告出稿(以下繰り返し)」というサイクルが分断される。資金の流入は止まる一方、その間も費用が流出するから、どのような対処をするにしても事態は急を要すると見ている。

二つ目は、社員弁護士の無限責任の問題である。

アディーレは全国各地に支店を有していることから、必然的に多数の社員弁護士を有している1。これは、原則として弁護士法人の支店には社員を常駐させる必要があるためである2

そこで問題となるのは、弁護士法人の社員は法人の債務について無限責任を負うことである3

もちろん、そのような法人の社員になったのが悪い、弁護士なんだからリスクは知っていて当然だという議論もある。一応、そうだと思う。ただ、支店の名ばかり社員は、まだ前途がある人たちである。個人の責任を追及されるような事態は回避できないだろうかとも思う。

 

依頼者に関する問題

業務停止が2か月に及ぶ場合4、法人で受任していた事件は辞任しなければならなくなるので、従前の依頼者は一旦放り出されてしまう。

そんなところに頼んだ人が悪いんだから自己責任でしょう、それこそ司法制度改革の招いた帰結だよね、という考え方は当然ありうる。実際、当職もそのように思っていた。

ただ、よくよく考えてみると、依頼者の自己責任を問うには、きちんと判断できるための情報が依頼者に与えられてなければならないのではないか、という疑問が湧いてきた。

本件の発端となった優良誤認表示は、まさにこの点を損なう行為なのである。

そうすると、依頼者は別に悪いことをしているわけでもないのに、放り出されて不利益を被るのはおかしいということにもなる。

だから、着手金はもらわないで対応しますという有志の弁護士がいればとても善いことだと思う。一方、通常の事件と同じように着手金をもらって対応しますという弁護士がいるとしても、それは通常のお願いをしているに過ぎない。幸か不幸か、色々な弁護士が増えた時代でもあるから、そのあたりは、余裕があるか、熱意があるか、等々の各弁護士の事情で対応を決めればよいと思う5

なお、やり方によっては、ハゲタカだとかハイエナだとかといわれかねないので、一定の節度は必要だろうと感じている。

 

まとめ

最後に何がいいたいかといえば、題名のとおりである。色々な意味でショックである。

そして、このショックは次々と色々な形で波及すると予測せざるを得ない。なお懸念は尽きないように感じている。

 

 


  1. 弁護士法人の「社員」というのは、従業員のことではなく、業務執行権限を有する地位にある者のことである。これは株式会社でいえば株主兼代表取締役のような強力な地位である。ところが、アディーレの場合、支店に常駐している「社員」に業務執行権限があるのかどうか分からない。本来、弁護士法人の支店に社員の常駐を原則として義務づけているのは、支店所在地の弁護士会が、業務執行権限のある者を通じて弁護士法人へ円滑で実効的な指導監督を行うことができるようにするためであった。実際、名ばかり社員を通じてでは、本体の弁護士法人へのコントロールを及ぼせない。名ばかり社員が全国各地に配置されて支店展開がなされるといった事態は、弁護士法人の制度が想定していなかったことだと思われる。 

  2. 弁護士法30条の17本文 

  3. 弁護士法30条の15第1項 

  4. 業務停止の期間が1か月以内の場合とそれを超える場合とでは、その効果は異なる。顧問契約はいずれにしても解除しなければならないが、受任している法律事件に関しては、「業務停止の期間が1か月以内であって依頼者が委任契約の継続を求める場合」は、委任契約を解除しなくてもよい(「弁護士法人の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」〔PDF〕の第2の1項1号で準用する「被懲戒弁護士の業務停止期間中における業務規制等について弁護士会及び日本弁護士連合会の採るべき措置に関する基準」〔PDF〕の第2の1号)。このため、業務停止の期間が1か月を超えた場合には、法律事務所の存亡に関わる事態であるということはいえる。 

  5. 本件では、懲戒された弁護士法人に所属する弁護士個人に委任することも選択できるとの案内が依頼者になされているようである。確かに、前述の日弁連の基準では、所属する弁護士が委任を求める働きかけをしないことが条件ではあるが、依頼者の求めがあれば、そのような扱いも可能である。そして、弁護士個人は自己の業務を行う必要に基づいて、業務停止中の弁護士法人の事務所を使うことができるようにも前述の基準は読める。ただ、そのような解釈ができるとしても、引継の態様によっては処分逃れをしているのではないかという疑問も出て来るようには思う。 

クレサラ問題リターンズ

過去には、クレサラ問題で大変な時代もあったわけで、昔の記事でも次のように書いたことがあった1

貸金業法の改正は社会に劇的な変化をもたらしました。これは、大変な苦労をしながら消費者問題に取り組んできた弁護士たちの活動の大きな成果であると評価して良いと思います。弁護士が束になって本気で頑張ると世の中が変わることもある、ということをこの件では実感しています。

 

自己破産件数が増加に転じる

ところがどっこい、である。

今年の4月3日に、朝日新聞が次のように報じていた2

個人による自己破産の申立件数が昨年、13年ぶりに前年を上回った。多重債務問題で消費者金融への規制が強化されて減少が続いていたが、最近は規制対象外の銀行カードローンが急増。自己破産増加の背景にはこうしたローンの拡大があるとの指摘が出ている 。

 

金融庁の動き

社会の変化は本当に素早いものである。

さらに、8月24日の北海道新聞でも、次のように報じていた3

金融庁が、過剰な貸し付けが問題となっている銀行カードローンに関し、9月にも特別調査を実施する方針であることが23日分かった。全国銀行協会(全銀協)は3月に自主規制策をまとめたが融資残高は増え続け、国会や法曹界から多重債務者の増加を助長していると批判が出ている。金融庁は大手銀行を中心に適切に融資されているか調べ、実態を把握する。

さすがに、金融庁も黙ってられなくなったということなのだろうか。

銀行のカードローンは、銀行は看板とカネを出しているだけで、面倒なことは保証委託先の消費者金融に丸投げしている感もある。

そこで、テキトーな融資をしている事案もぽろぽろ出て来るような気がする。しっかり調査をしてほしいと思っている。

 

総量規制の成果

債務整理の実情はどうなっただろうか。

総量規制の成果として、過剰な借り入れをしている人は減ったのは実感する。昔は6社合計300万の借り入れをしていた、といった人が少なくなかった。

今では、そのような事案はあまり見かけない。個人の債務整理の案件でも、負債総額が100万前後に落ち着いているケースの方が多い印象である。

負債総額が100万円であっても、数社から借りて平均が年利18%だとすれば、月あたり1万5000円の金利の負担である。これ以外に元本も返さなければならないのだから、そう簡単なことではない。負債総額が圧縮されているとしても、支払が難しくなれば仕方がないから、債務整理をすることになる。

 

低賃金の影響

一方で、このような借り入れをしている人の給料が最低賃金付近に張り付いていることは、割と普通に見かける(=月20万円も行かない)。

人間、生きていれば何かとお金は掛かるのであり、切りつめるにも限界がある。

債務整理の方針を決める上で、近時、しばしばネックとなるのは、基本給が低いということのみならず、給料が上がる見込みはないとか、ボーナスは元々ないとかいった事情である。つまり、低賃金ぶりが著しいのである。

そうすると、負債総額が圧縮されている傾向にあったところで、自己破産を選択せざるを得ない。

 

浮かんでくる構図

ということで、私から見える構図は、

銀行
カネ余る→企業の貸出先ない→消費者に高金利で貸付→保証委託先から回収

消費者
賃金増えない→借金に依存→経済的破綻

というものである。これは一歩間違ったら革命前夜みたいな状態じゃないのか、という気がしている。冗談ではない。

もちろん、円安とか株高のメリットを享受できる向きには今の経済情勢は良好に見えるのであろう。それはそれで、大変結構なことだと思う。

しかし、残念ながら当職にはそのような世界は視界に入ってこない。むしろ、個人的には、今の経済政策ヤバくないかと感じている。お前の偏見に過ぎないとの批判はありうるだろうが、そのような実感である。

 

まとめ

今の私が出来るとすれば、相談に来たお客さんに、債務整理の手ほどきをしてお金の問題の悩みを和らげるくらいのことしかない。

お金の悩みを全面的に解決します!とまでは言いにくいのは、弁護士が債務整理をすることで債務をカットできても、お客さんが収入を増やす途を示すことまではできないからである。

仮に、生まれ変わることが出来るのであれば、貧困を撲滅する経済理論を開発するために身を捧げられないだろうかという思いつきが出てくるくらいには、いささか悔しい思いを持っている。

 

 


  1. 「行政活動とのかかわり(4)貸金業関係連絡会」/http://iwata-lawoffice.com/wordpress/wp/?p=2187 

  2. http://www.asahi.com/articles/DA3S12874177.html 

  3. https://www.hokkaido-np.co.jp/article/127475 

認定司法書士の締結した和解契約に関する最高裁平成29年7月24日判決について

以前の記事でも触れたように、司法書士が債務整理の分野に進出したことに伴い、その権限の範囲について問題が生じたことがあった。

その記事には、

そうすると、140万円を超える請求権の発生する事案で司法書士が関与して行った和解は、たとえ形式的には本人にハンコを押させたからといっても無効とされる余地が出て来るような気もします。

さあ、そうなると、和解無効を理由として紛争が蒸し返されることはあり得るんじゃないでしょうか。貸金業者はたまったもんではありません。

と書いているが1、締結した和解契約が無効になるかどうかという点は、必ずしもはっきりしていないところであった。

 

認定司法書士による和解契約の効力

さて、認定司法書士が締結した和解契約の有効性について、最高裁判所が判決を出した。

平成29年7月24日 第一小法廷判決2
認定司法書士が委任者を代理して裁判外の和解契約を締結することが同条3に違反する場合であっても、当該和解契約は、その内容及び締結に至る経緯等に照らし、公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情がない限り、無効とはならないと解するのが相当である。

ということで、認定司法書士が締結した権限外の和解契約を有効としている。

これは、計算上約330万の過払いがあったはずだが、認定司法書士が200万円で和解したという事案である。

 

判決の評価

本来出来ない業務に関与している認定司法書士が有効な契約をできるか、という点に関して、最高裁は、特段の事情がない限り無効とはならないという判断をした。

しかし、弁護士法72条違反の法律行為は、公序良俗に反して無効であるとされる4。無効な契約に基づく行為は、どこまで行っても無効ではないのだろうか。にもかかわらず、有効になる場合があるというのが、今回の判決の内容である。

単純に考えれば、筋が通ってない。

確かに、単純に和解無効とすると法的安定性は損なうのだが、貸金業者の方だって認定司法書士の関与について見て見ぬふりをしていたはずである。代理人が司法書士なら140万まで!というのは法令上の制限なのであるから、分かっていない訳がない。和解無効のリスクがあることは承知していて当然である。

そこで、どうも釈然としない。

実際上は、公序良俗違反の性質を帯びるに至るような特段の事情を主張して争う、ということにはなるのだろう。

 

判決の影響

この判決で救われたのは貸金業者ということになる。

過去に認定司法書士が関与した権限外の和解契約について、蒸し返されて無効主張されても負ける可能性は小さくなるだろう。貸金業者はほっとしているはずである。

一方、権限外の金額となる和解に関与した認定司法書士の責任は、どうであろうか。

今回の判決では「当該認定司法書士は委任者から報酬を得ることもできないこととなる」などと言及している。そうすると、権限外の業務に報酬請求権がないことのお墨付きを与えたような感もあり、債務整理の報酬を返還しろという請求は生じそうである。実際にそこまで踏み切る人がどれ程いるのか分からないが。

また、出来ることと出来ないことをしっかり説明しないと、説明義務違反を問われる5

本来請求できたはずの額との差額まで損害賠償請求されるかどうかは、事案にもよるところであろう6

 

まとめ

以上のとおりで、以前の記事に書いたのと同様、140万円超の和解に関与した認定司法書士は依然として責任を問われるおそれが続いているので、この問題、どう収束することになるのか気になるところではある。

 

 


  1. 「司法書士の代理権に関する最高裁平成28年6月27日判決の衝撃」http://iwata-lawoffice.com/wordpress/wp/?p=2946 

  2. (PDF)http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/944/086944_hanrei.pdf 

  3. 弁護士法72条。 

  4. 最高裁判所昭和38年6月13日第一小法廷判決(PDF)http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/792/053792_hanrei.pdf 

  5. 大阪高裁平成26年5月29日判決(最高裁平成28年6月27日判決の原審)では、慰謝料として1人当たり10万円を認容している。 

  6. 前掲大阪高裁判決では、回収見込額等の事情について必要な説明がなされていたことを理由として、この点の請求は認められていない。 

司法書士の代理権に関する最高裁平成28年6月27日判決の衝撃

最高裁判所の裏側

近年は、司法書士に簡裁代理権が付与されたことを背景に、債務整理の分野にも司法書士が進出して、過払金を交渉して取り返すということも見られるようになりました1

ただ、訴訟外での司法書士の代理権は、紛争の目的の価額が140万円を超えない範囲に制限されています2。この範囲については解釈の争いがあったのですが、この度、最高裁判所が判決を出しました3

代理することができる民事に関する紛争も、簡裁民事訴訟手続におけるのと同一の範囲内のものと解すべきである。また、複数の債権を対象とする債務整理の場合であっても、通常、債権ごとに争いの内容や解決の方法が異なるし、最終的には個別の債権の給付を求める訴訟手続が想定されるといえることなどに照らせば、裁判外の和解について認定司法書士が代理することができる範囲は、個別の債権ごとの価額を基準として定められるべきものといえる。

すなわち、司法書士が債務整理を取り扱うときは、個別の債権毎に140万を超えないかどうか検討せよ、ということになります。

この判決、自分にはそんなに具体的な影響はないんだろうな、と思って見ていたところでした。

もっとも、これまでにはこの基準を超えて司法書士が債務整理を扱うことが一部にはあったようにも聞きますので、実際上は色々と影響があるように思えてきたところです。

 

司法書士への影響

取り扱える範囲を超えていた事案については、以前行った債務整理の報酬を返せ、という問題が発生します。

ただ、これは、蒸し返されるかどうかはお客さんの考え方次第とは思います。早速、焚き付けている弁護士もいるように見受けられるのですが…。

問題は適当な内容で和解していた場合でしょうか。元々、取り扱う権限がないのであれば報酬の根拠も欠くわけですから、吐き出すべきであるということになってもやむを得ないのでしょう。

もっとも、司法書士からお金を取り返すとなると、もらった報酬は既に事務所の経費に使っちゃってるといった理由により(例えば広告をガンガン出してたりすればすぐ無くなります)、賠償資力の問題が発生する場合もあるように思います。そうすると、戦々恐々としている事務所もあるかもしれません。

 

貸金業者への影響

これは直ちに何か問題が生じたりするんだろうか、とは思ってました。

ただ、弁護士法72条に反する私法上の行為は公序良俗に反して無効だ、という考え方はあるところです4

そうすると、140万円を超える請求権の発生する事案で司法書士が関与して行った和解は、たとえ形式的には本人にハンコを押させたからといっても無効とされる余地が出て来るような気もします。

さあ、そうなると、和解無効を理由として紛争が蒸し返されることはあり得るんじゃないでしょうか。貸金業者はたまったもんではありません。

特に、債務整理に関与した司法書士が適当な和解をしていたということだと、蒸し返されても仕方がない理由があります。本来の請求額はもっと多い!という主張を封ぜられず過払い紛争が仕切り直し、という事態も予想されます。

ということで、実は、過払い返還ラッシュが落ち着いてきた貸金業者に影響が飛び火しそうな予感もないわけではありません。

 

まとめ

無論、法律上認められている権限の範囲で業務を行うことは許容されることですが、過払いバブルに悪乗りしてしまった一部の司法書士は、結果的には無理をし過ぎてしまったのではないかな、という感はあります。

また、貸金業者も、司法書士の業務範囲の制限に見て見ぬふりをして有利な和解をしていたのであれば、やっぱりそれは良くないよね、ということにならざるを得ないでしょう。

何が正しい解釈となるのか予測するのは難しいこともあります。そこで、今更言っても後出しジャンケンみたいな感もありますが、皆それぞれ堅めの解釈に基づいて振る舞うべきではなかったか、とは思います。

 

 


  1. なお、本文中の「司法書士」は、司法書士法3条2項に定めるところのいわゆる認定司法書士のことを指す。 

  2. 司法書士法3条1項7号裁判所法33条1項1号 

  3. 最高裁判所平成28年6月27日第一小法廷判決 

  4. 最高裁判所昭和38年6月13日第一小法廷判決。但し、この判例は第三者との関係で締結した契約の効力まで射程に入っているのか、という問題はある。 

行政活動とのかかわり(4)貸金業関係連絡会

平成18年に貸金業法の改正がなされ、それに前後した時期からだったと思いますが、年に一度帯広の財務事務所に呼ばれることがあり、そこで貸金業関係の話題について懇談する会議が開かれています。

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その趣旨としては、おそらく、改正貸金業法の施行とそれに伴う影響について、財務局サイドで実態を把握するということがあるのだと思います。

 

貸金業を取り巻く環境の激変

統計資料をもらっていますので、どれだけ影響があったか簡単な指標の例を示します。

貸金業者の数1
平成17年3月 18005社
平成27年3月  2011社

貸金業者から5件以上借入残を有する人数2
平成22年4月 115万人
平成27年3月  14万人

ほかの指標も考慮すべきかもしれませんが、これだけでも、もう激変といっていいのではないかと思います。

しかし、法改正に至った経緯については、多少世間から忘れられていそうな感じもしています。

そうはいっても、私も(弁護士になった)平成15年より以前のことは知らないことも多いので、この件に触れるのも僭越ではあるのですが、知っている限りで昔のことでも記しておきたいと思います。

 

ヤミ金について

昔の貸金業者の利率は年利40パーセントを超えるのが普通で本当にひどかったんですが、過払金の請求がそれほど一般的ではない時代もありましたし3、また、ヤミ金も野放しみたいなところがあったような気がします。嫌がらせで勝手に寿司とかピザとか送りつけられてきたということも良く聞きました。

なお、ヤミ金への対応時にピザが送りつけられそうな臭いを察知した私は、近隣の宅配ピザ屋さんに「うちではピザ注文しないぞ。うちの名前で注文来たらヤミ金だからな。」と注意していたのですが、うまく伝わらなかったのかピザを持ってこられてしまったことが1回だけありました(惜しい!)。

ヤミ金に関しては、最盛期よりは減っているのですが、ここ数年は役所に寄せられた苦情件数自体それほど減ってはいません。手口もいろいろと変わってきているようですし、依然として撲滅に向けての対策は求められているところではあります。

 

かつての商工ファンド

商工ファンドという会社があり、事業者向け金融をやっていました。

私がこの会社の名前を知ったのは学部4回生の時で、ダイレクトメールで「会社の歩き方 商工ファンド編」という冊子が送られてきて、大島塾長自ら講義を行う研修制度「商工ファンド松下村塾」「商工ファンドMBA」なるものが存在するとか何とか聞いて、ずいぶんおかしな会社であると思った記憶があります。

その後、実際の状況を目の当たりにするようになるのですが、最初から支払に窮するような高金利で貸して主債務者を追い込み、そして保証人から回収することを目標とするというビジネスモデル(?)により高収益を上げるということでした。しかし、追い込みに耐えかねたり、保証人に迷惑をかけるのがつらいといって自殺する人もいましたから、こんな会社を高収益だの高株価だのともてはやしている連中は、地獄に落ちるような気がしていました。

そして「支払地:東京都中央区 支払場所:株式会社商工ファンド」という訳の分からん私製手形(いわゆる「おもちゃ手形」) を債務者に振り出させて、払えなかったらその手形を使って手形訴訟を乱発していたので、遂には、東京地裁がブチ切れて手形訴訟を拒絶したということもありました4

その後、同社はSFCGと社名を変えましたが、その結末はみなさんご存知のとおりかと思います。社長を題材にした「天馬行空(てんまそらをいく)」というPRマンガも作られてたりしてましたが、最終章で天馬は逝ってしまいました。それでも辛うじて塀の向こう側に落ちずには済んだようですが。

 

武富士とのバトル

また、変わったダンスを踊るCMで一世を風靡した武富士という消費者金融がありました。街頭で配られているティッシュをもらった記憶がある人も多いのではないでしょうか。

武富士も当会のクレサラ問題を一生懸命扱っていたある会員に対して種々の業務妨害を繰り返し、「○○弁護士被害者の会」みたいなものをでっち上げて懲戒請求をやってみたりであるとか、その弁護士の依頼者全件について訴訟提起して任意整理を困難にさせるとか、ずいぶんと悪辣なことをやっていたりもしたものです5

ただ、あまりに適当な訴訟の提起をしていたので、事情がよく分かってないまま法廷に許可代理を求めて出てきたヒラ従業員の若いお姉さんに裁判官が激怒していたのを見たことがあります。ちょっと気の毒でしたが、その時は裁判所って公正だなあ、と思いました。

 

感想

そんなことも過去の話となりました。

そうしてみると、今は、ずいぶん平穏になったなあとも思わなくはありません。過払いの事件も、破産の事件も、随分と昔に比べてみれば減ったものです。

貸金業法の改正は社会に劇的な変化をもたらしました。これは、大変な苦労をしながら消費者問題に取り組んできた弁護士たちの活動の大きな成果であると評価して良いと思います。弁護士が束になって本気で頑張ると世の中が変わることもある、ということをこの件では実感しています。

 

 


  1. 元のソースは金融庁ウェブサイト。http://www.fsa.go.jp/status/kasikin/20150930/06.pdf 

  2. 元のソースは株式会社日本信用情報機構ウェブサイト。http://www.jicc.co.jp/company/jicc-data/index.html 

  3. 例えば、平成12年に会社更生手続に入ったライフという信販会社があったが、少なくともこのころは更生手続の上でも過払金の存在には十分に配慮していなかったように思われる。 

  4. 裁判例として、東京地方裁判所平成15年11月17日判決(判例タイムズ1134号165頁、判例時報1839号83頁)がある。http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/612/005612_hanrei.pdf 

  5. 武富士からの種々の業務妨害の詳細については、こちらを参照されたい。 

債務不存在確認訴訟に強い弁護士

○○に強い弁護士!といえる程度に何か強い分野はないか考えてみたのですが、未だ勉強することが尽きないように感じる身としては、なかなか自信を持って強さをアピールとはいきません。

酒に強い!(比較的)とかなら思い浮かびますが、職務と関係なさそうです。

さて、訴訟となれば、勝った負けたは事件の筋もありますし、代理人の努力の次第もあるとは思いますが、強い!とはいえないものの、たまに活用している訴訟分野があることに気が付きましたので少しまとめてみます。

 

貸金業者と債務不存在確認訴訟-消滅時効

多分バルクで買い叩いて来るんだと思いますが、時効に掛かった債権を集めて、とりあえず債務者に請求してみるということを行っている貸金業者があります。もちろん、そのような事案の相談があれば、とりあえず時効援用通知を出しておきなさいと指南し、簡単なひな形をお渡しして出してもらっています。

たいていはそれでおしまいです。

問題は、相談者が突然請求が来たことにびびって少しでもお金を払ってしまった、というような場合です。これは手紙で請求されるだけでなく、取り立てに人をよこすという場合もあるようで、全くひどい話です。

こうなると、消滅時効の援用は信義則上許されないという判例がありますので(最高裁昭和41年4月20日判決)、貸金業者は請求をやめません。

誠にけしからんことです。一般人にそんな判例の知識なんかないことが普通ですよね。

 

そこで、なお消滅時効は援用できないものかと考えてみるわけですが、上記判例の根拠は信義則(民法1条2項)ですから、個別の判断はあり得るんじゃないか、と思い至ります。

そのような事案で具体的な事情を探ってみると、たいてい時効であることを知らないというばかりではなく、突然取り立てがやってきたのでびっくりして払っただとかという事情は普通に出てきます。

こうして、場合によっては、債務不存在確認訴訟を起こしてみることに行き着きます。

ただ、債務不存在確認訴訟の管轄は普通に考えると被告の住所地ですから(民事訴訟法4条1項)、取り立ててくる貸金業者が札幌とかにいる場合には面倒です。

たまに札幌に遊びに来た内地の友人から「北海道に住んでるんなら来い!」とお誘いを頂くこともあったりしますが、帯広からは片道3時間は要するのでわざわざ札幌まで行ってられません。

 

更に考えてみると、消滅時効を援用すると時効完成後に弁済したお金は理屈の上では不当利得になりますから、これを返せという訴訟なら、いつもやっているとおり、持参債務の原則(民法484条)で義務履行地(民事訴訟法5条1号)である自分の住所地で起こせます。

以上二つの請求は訴えの客観的併合の要件に反していませんから、併せて自分の住所地で訴訟を提起してしまえばよい、ということになります(民事訴訟法7条)。

 

さて、訴訟を起こしてうまくいくかということに関しては、これは事案によるかとは思います(本気で反訴されることはあり得る。)。

しかし、貸金業者にしてみれば、そんな訴訟に勝っても得をしませんから、真面目に応訴するモチベーションは乏しくなるはずです。

そこを狙いつつ、更に、このような貸金業者はサービサー法3条(債権管理回収業は許可制)に違反しているとか、弁護士法73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)に違反しているとか主張していると、ゼロ和解くらいはできる場合もあります。これで一件落着という場合もあるでしょう。

 

貸金業者と債務不存在確認訴訟-残債務額の食い違い

貸金業者が取引履歴を全部開示しないにもかかわらず残債務があると主張してくる場合や、引き直し計算をしてみたものの残債務額の認識が食い違っているという場合があります。

取引の履歴がわからないのに債務が残っているとは支離滅裂に思うのですが、このような場合も、債務不存在確認訴訟によることがあります。

推定計算すると過払いが生じることを併せて主張してみたり、あるいは自宅に担保を付けていればその登記の抹消請求の訴えをくっつけるなどして(民事訴訟法5条13号)、自分の住所地で裁判を起こせます。

これもやはり貸金業者側は真面目に応訴するメリットに乏しい訴訟ですので、程々に解決を図ることができることはあります。

 

そういうことで、債務不存在確認訴訟に強い!とまでは言い切れないのは、ガチンコで争って判決を得るところまで行かないからですが、そう多く使える手段ではないとはいえ、債務不存在確認訴訟については活用できる局面もあるように思っています。

 

交通事故と債務不存在確認訴訟

なお、債務不存在確認訴訟が使われる他の類型について、少し触れておきます。それは交通事故の損害賠償請求の事案です。被害者側の要求が過大であること等を理由として、加害者側から訴えてくることがあります。

このようなケースでは通常は加害者側に損害保険会社等がついており、訴えにより賠償の処理を早めることが主眼にあるようです。

一部の共済などにおいては、話しにならないと見るや唖然とする早さで債務不存在確認訴訟を起こしてくることがあったりするので、弁護士である当職ですら驚くことがあります。

この場合、濫訴的なものでない限りは、被害者側は訴訟手続の中で損害額を定めるための主張をしつつ和解するとか、あるいは反訴を提起するということにはなるでしょう。

ただ、この類型で注意しなければならない点は、被害者いじめだ、という反感が生じることにあると思います。

このような訴訟を起こされた被害者側は、被害を受けたのに訴えを起こされるなんてひどい話だ、という思いを持つことになり、余計に事案がこじれかねません。

私も損害保険会社の仕事をしていたことがありますが、先輩方からは、交通事故で債務不存在確認訴訟はできるだけ起こすな、といわれたことがありました。加害者側としては、被害者側を十分に説得した上で賠償を行うことが本来の筋ではありますから、余程のことがない限りいきなりそのような手段に出るべきではないのでしょう(もちろん「余程のこと」が生じるケースもありますが。)。

 

そういうことで、またしても債務不存在確認訴訟に強い!とまでは言い切れないのは、この種の訴訟にいきなり踏み込むことには躊躇するからなのですが、もし加害者側の立場で損害額を確定する必要がある場合、一般的には、まずは話し合いをベースにした民事調停の手続によるべきであろう、というようには考えるところです。

 

 

債務整理は地元の弁護士へ

このようなタイトルを書くと、かつてのたばこの広告(「たばこは地元で買いましょう」、地方税が入るから)と同じような響きなのですが、債務整理をする際にどこの弁護士に頼んだらよいかという問題について、少し触れてみたいと思います。

 

最近は、テレビCMを大々的に打つ法律事務所があったり、新聞の折り込みチラシに連日のように移動相談の広告が入っていたりもします。また、ネット上のアフィリエイト広告で弁護士の顔を見たりもします。

東京から海を渡らねばやって来れない帯広のような地方の街でも、最近は、東京から出張してくる弁護士や司法書士が新聞広告やチラシをかなりの頻度で出しているのを目にします。

そこで、このような広告を見て相談をしたり実際にお願いをするというケースを間接的には耳にしているのですが、どうも一部の弁護士あるいは司法書士は問題のありそうな処理をしているようです。

 

例えばこのようなことです。

  • 過払いがないと分かると、地元の弁護士のところに行って下さいといって受任しなかったり、処理を打ち切る(ということで、うちにはそういう事件がしばしば回ってきます。)。マーケティングということだけ考えれば、過払い案件をつまみ食いするのは結構なんだと思いますが、取り立てに追われる人を見捨てる結果になるわけですから、社会的には意味の乏しい仕事だと思いますね。
  • 過払い金だけつまみ食いして、他の問題はケアしない(たとえば、生活保護を受けなきゃ生活できないようなケースでもその点のフォローができない。)。
  • 面談しないで任意整理をやる(これは日弁連の定めた規程に反する可能性が高く、問題ありです。)。
  • 無理のある任意整理の和解を組む(民事再生すればもっと負担が少なかったのに・・・。)。
  • 報酬が結構高い(うちはもっと安くて適正な処理が可能です、というのをアピールしても良いくらいです)。

 

必然的に、営業費用が掛かれば儲かる事案しかやらないようになりますし、単価も上げざるを得ないということになります。

弁護士の派手な広告を見る度に、私なんかは、広告1本出したら幾らで、移動費が幾らで、なんてシミュレーションを始めてしまいますが、そう考えて積み上げていくと営業費用がかさんでくるのは明らかなので、これは最終的にはお客さんに転嫁するしかないんだろうなと冷静に見ています。

それでは結果的にお客さんのためにはならないでしょうし、弁護士以外は誰も得をしないのではないか、という気がしてなりません。

 

そのような訳で、債務整理は地元で堅実に活動をしている弁護士に任せた方が、一般的にはメリットもあるのではないかと思った次第です。

あとは、そのメリットがあるということをどのようにアピールするか、というのが我々の課題かもしれません。

少なくとも、法的整理(破産、民事再生)を行う場合は、裁判所の管轄の関係で、地元の弁護士に依頼をしないと色々不便な問題が生じることがありますので(例えば、移動を要する弁護士に旅費・日当を取られるとか、各地の裁判所ごとのクセに慣れてないとか)、このような場合は余計に地元の弁護士に頼むメリットが出てくるように思います。