インバウンド対応の課題・刑事手続編

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知床半島

日本政府観光局の推計によると、2016年は、10月末の時点で日本を訪れる外国人旅行者の数が2000万人を突破したとのことです。

昔に比べると、ビザが緩和されたり、航空路線も増えたりしていますし、更に、円安の傾向もありますから、外国人は日本を訪問しやすくなっていると思います。

 

レンタカー旅行の危険性

北海道でも外国人旅行者を見かけることは普通の光景になりました。北海道はとても良い所ですから、多くの外国人に訪れてもらうのは大変喜ばしいことです。

しかし、訪れる人が多くなるほど、色々な問題も起こります。

例えば、道東では、公共交通機関が極めて不便なので、外国人がレンタカーで移動することもあります。そうすると交通事故の発生は避けられません。

人身事故を起こすと、逮捕・勾留もあり得ます。外国人にとってみれば、異国の地で身柄を拘束される不安は相当なものです。

そして、外国人の旅行者は住所がないのが普通なので、起訴後の保釈も難しいという問題があります。保釈できないと起訴後も延々と身柄を拘束されますし、保釈ができたとしても、少なくとも判決をもらうまでは国には帰れません1

これは、外国人旅行者には大きなリスクです。

誠に残念な結論ですが、北海道では、外国人旅行者は車を運転するべきではなく、タクシーやバスの利用が推奨されます。本当は旅行は自由なのが良いのですが、敢えて、そういわざるを得ない困難さがあります2

 

弁護対応の問題

なお、私がいうのも心苦しいことではありますが、当地で外国人の関係する刑事事件が発生した場合、外国人への弁護対応について十分に体制が整っているとはいえません。

特に、当地では、外国語を理解する弁護士や通訳の人員も限られる、という問題があります。

大都市であれば、外国語対応できる弁護士もいたり、通訳もいる、ということはあるでしょうが(外国語にもよるかもしれない)、このあたりでは、外国語が要求される業務が集まりにくいので、そのような人材が増えていくことは簡単には期待できません。

 

まとめ

外国人旅行者を積極的に誘致することは、実に結構なことではあります。

ただ、それを受け入れる社会の仕組みは、今ひとつ追い付いていないように感じられます。それは、例えば、交通事故のような予期せざる事象が生じたときに、より強く感じざるを得ないといった昨今です。

 

 


  1. 近時、外国人旅行者の交通事故の事案について、保釈の許可を得られたということはあった(なお、全く経験のないケースであったため、こちらの情報を参考にさせていただいた。)。ただ、これは当地の同胞による支援があったからこそ何とかなったというもので、特殊なケースであろう。一般的には、外国人旅行者の保釈は様々なハードルがあるように感じられた次第である。 

  2. 交通事故のリスクは内地の日本人だって同じではないかという指摘もあるだろうが、捕まったときに言葉が通じるか通じないかは極めて大きな差があるし、起訴後の保釈が認められる可能性もかなり違うと思われる。 

大麻取締法違反の刑事弁護

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最近は刑事事件を扱う機会も少なくなりましたが、これまで扱ったうちでは薬物事犯は少なくない割合を占めています。主として覚せい剤取締法違反の事件が多いのですが、大麻取締法違反の事件を扱う機会もそう珍しいことではありません。

そこで、今回は大麻取締法違反事件の特徴について触れたいと思います。

 

北海道の特殊性

北海道の大麻事犯における最大の特殊性として、大麻が自生していることがあります。結構、そこら中に生えています。

しかし、当然ながら、大麻が生えているところはお巡りさんがマークしているでしょうし、よその人が田舎の草地でゴソゴソやってれば怪しまれるというものです。

どうも、道東の大麻はキマる、という噂でもあるのか分かりませんが、時期になると集団で大麻を刈りに来る人もいるようですし、取っているところを捕まるといったこともあるようです。

自生大麻については、厚生労働省の麻薬取締部で草刈りをするなどして駆除を図っているようですが(昔の釧路修習では大麻駆除の見学があったらしい)、大麻という植物は成長が早いのでいたちごっこです。

 

所持量の多さ

もう一つの北海道における大麻事件の特徴として、所持量が半端でないことがあります。

何故そうなるのか良く分からないのですが、大麻の自生地に辿り着くとテンションが上がってやたらと刈り取ってしまうようなこともあるのかもしれません。

法廷にもいくつものビニール袋いっぱいに証拠物として運ばれてくることがあります。

所持量は量刑に影響しますから由々しき問題です。また、余りに所持量が多いと自分で使うためだけじゃないんじゃないか、という疑いが掛けられかねません。そこで、この種の事案では、何でそんなに持っていたのか十分に被疑者・被告人の言い分を聞くことは重要な弁護活動のポイントのようには思います。

 

若者の使用

そして、これは北海道に限ったことではないのでしょうが、大麻事件の特徴としては若い人が多いということはあるように思います。若い人は大麻への抵抗感が比較的低いのかもしれません。

ところで、大麻はたばこより害がないし、大麻の使用が合法な国も少なからずあるのだからそもそも規制はおかしい、という意見を耳にすることも昨今ではよくあります。

もちろん、規制が違憲であるとの主張はあり得るのかもしれませんが、余り考えないでそのような意見を法廷で言ってしまうと、反省が足りないといわれても仕方がないという実情ではあろうかと思います。その意味で大麻の事案は弁護人泣かせです。

ここは、弁護人がそれぞれ工夫して被告人の理解を得るよう努めるべきところではあるのでしょう。

大麻についての考え方が国によって違うというなら、まずは各国の規制を良く理解してもらうことも一応の意味があるようにも思っています。例えば、大麻の使用が合法化されているところもある一方で、大麻の所持量によっては死刑になる国もある、といった話をすることはあります。実際、シンガポールの入国カードには”DEATH FOR DRUG TRAFFICKERS UNDER SINGAPORE LAW“(意訳:運び屋は殺す。)みたいなことがデカデカと書かれていて、度肝を抜かれた記憶がありました。

 

まとめ

以前、大麻事犯で有罪判決を言い渡した裁判官が「北海道には大麻が生えているから二度と来ないでください。」と説諭していたことがありました。ええっ?と一瞬耳を疑ったのですが、確かに、大麻が自生していることで生じる問題もあるようです。

以上、北海道における大麻事犯には、色々と際だった傾向があるようには思っているところです。

 

 

恐怖の刑事司法改革

法制審議会の議論がまとまったとのことで、取り調べの録音・録画を裁判員対象事件と検察の独自捜査事件について義務化することや、通信傍受の範囲の拡大、司法取引などが導入される見通しのようです。

しかし、これではおよそ前進したとは言えないどころか、いわゆる毒まんじゅうを食わされたようなものです。法制審議会の委員のうち、弁護士の宮崎誠氏と小坂井久氏に関しては、何をしに行っていたのでしょう。色々とお考えはおありなのでしょうが、ご両名はこのような内容であれば机を蹴って会議から出て行くのが本来の役割ではないのかと、問い糺したくもなるところです。

 

問題点を指摘しておきます。

取り調べの録音・録画は、裁判員対象事件と検察の独自捜査事件については既に試行されています。(最高検察庁・取調べの録音・録画の実施状況)

最終案はこれを追認するだけですから、そういう意味では前進してません。全事件の2パーセントくらいにしかならないようです。しかし、自白の強要による冤罪事件は、何も重大事件や特捜事件に限らず、普通の事件でもしょっちゅう起きていることです。そして軽微な事件なら、罪を認めて釈放してもらおうとかという動機が働きかねないこともありますから、冤罪の恐れが小さいわけではありません。

 

 

そして通信傍受の範囲も拡大されそうです。

ここも安易に認めると、何でも組織的犯罪だとかと名目を付けられて、傍受をされやすくなる危険性が高くなります。基本的には通信の秘密が害される範囲を広げるということですから、犯罪とは無縁の人にとっても決して良いことではありません。

 

さらに司法取引の導入は重大な問題です。

司法取引の内容としては、他人の犯罪を認めるのに協力した場合に取引を認めるという内容のようです。これは引っ張り込みの危険があるということは容易に想像できます。どういう場合に使われるかというと、狙い撃ちしたい奴が居る場合に、周囲の人間を適当な罪名で引っ張って身柄拘束し、苛烈な取り調べをして、ターゲットが罪を犯したことをでっち上げさせることが想定されます。例えば、贈収賄や選挙違反で容易に使える手法だということになります。

 

贈収賄であれば、気に入らない政治家がいれば、それを追い落とす目的で周囲の人間を贈賄罪でしょっ引いて、賄賂を贈った事実をでっち上げて司法取引をして、それを基に収賄の容疑で政治家を逮捕するのが簡単になります。仮に収賄の事実がなく無罪になったとしても、そうなれば政治生命は事実上絶たれるでしょうから、政治家を失脚させる目的でこの制度を使えば、目的は容易に達成できます。

選挙違反事件でも同様です。選挙違反事件となると、関係者を一網打尽に逮捕して、一律に接見禁止をして、弁護人が接見をしようとしても時間は30分までとか接見制限をしてくるような運用をして苛烈な取り調べを行っているのが通例ですが、関係者に司法取引で選挙違反を認めさせてしまえば、狙い撃ちした政治家を連座制で失脚させることが容易に達成できます。

 

そして、狙い撃ちの危険は別に政治家に限らず、有名な人や目立つ人、世間から気に入られていない人、検察・警察に嫌われている人、あるいは政府の施策に何かと楯突く人、などであれば常にそういう危険があり、その危険が高まることになるのです。これは極めて恐ろしいことです。

しかも、そういうことが可視化の対象外であれば、更に容易です(例えば、警察扱いの贈収賄や選挙違反)。

 

刑事司法の問題は、自分は刑事事件とは無縁だから関係ないというのではなしに、よく想像して考える必要があるかと思います。

電車に乗る人なら、痴漢と疑われるかもしれません。車に乗る人なら、自分に落ち度がなくとも人が飛び込んでくるかもしれません。そんな場合に突然犯罪の嫌疑を掛けられて身柄拘束されることは、誰でも起こり得ます。そういう状況を想定してみると、どのような刑事司法制度であるべきか考えるのは難しくないと思います。変な制度が導入されることには警戒しなければなりません。