弁護士に 死ねというのか 法テラス(国選弁護報酬算定における具体的問題点の考察)

裁判員事件が釧路で行われる場合、概ね、9時半ころに開廷し、17時ころに終了する、というスケジュールで、連日開廷される。

ところで、開廷が9時半の場合、帯広から始発の汽車に乗っても間に合わない1

9時半開始の期日に出ようとすれば、朝早くから2時間強を掛けて、120キロメートル余りの道程を自動車で行かなければならない2

いわゆるクソテラスメソッド

そこで、連日9時半から開廷しているときは、釧路以外のところから来た弁護人は、釧路に泊まるのが普通である。

しかし、法テラスは「一般国民の目からみても、宿泊することが真にやむを得なかったと認められる場合」に宿泊料を出す、という基準を持ち出してくる。平たくいえば、午前6時以降に出発すれば間に合う場合や、日付が変わる前に帰り着く場合には、宿泊料を出さない。

これによると、帯広の弁護人は、朝6時に家を出れば間に合うし、日付の変わる前には帰れるから、宿泊料は出ないことになるらしい。

つまり、帯広・釧路間を、自分で車を運転して連日往復しろ、というのである3

死ねというのか。

これは、二つの点で不正義であると思う。

不合理な待遇差

一つは、裁判員や検察官は、泊まっているからである4。にもかかわらず、税金を無駄にできないから弁護人は自腹を切れ、と法テラスはいう。

なぜ、弁護人だけが、違う取扱いに甘んじなければならないのであろうか。

等しきものは等しく扱え、というべきである。

裁判員に対しても、朝6時に出てその日のうちに帰れる人の宿泊料は出ないので、毎日釧路まで車で往復してください、とのご案内でもしているのであろうか。

まさかそんなことはないと思う5

タダ乗り

もう一つは、なぜ、弁護人は他人のための活動をしているのに、自腹を切らねばならないのかということである。

そもそも、裁判員事件が始まったために、帯広の弁護人は、裁判のためにわざわざ釧路に行かなければならなくなった。新たな負担を強いておきながら、国民のための制度だから我慢しろというのか。

しかし、どんなに裁判員制度が国民のためによい制度であったとしても、その実現のために、特定の人間に特別な犠牲を強いるのは誤っている。

それは、単なるタダ乗りである。

釧路での宿泊料は比較的高くないが、それでも、連泊すれば万単位の出費にはなる。これは実費である。本来は、弁護人が負担する謂われはない。

何も、弁護料を上げろというのではない。せめて実費くらいは出してくれないだろうか。

いつまでも 法の光は 差し込まぬ

このような扱いだと聞いて、さすがに、法テラスの事業に協力する気が失せてしまった6

もちろん、法テラスを使わないと、弁護士の助力を得られないというお客さんは、いる。そういう人からお願いを受けてどうにかしなければならない、という場合には多少悩むと思うが、法テラスの側からあれやれこれやれと言われるのは、もうイヤだ、というしかない。

力及ばず、無念である。

まとめ

法テラスが大変勿体ないことをしているなあ、と思うのは、せっかく多士済々な弁護士各位の協力を辛うじて得られているのに、その能力を生かす努力をしていないことに尽きる。

むしろ、やる気を殺ぐようなことばっかりやっている7

弁護士のやる気を損なわない頼み方をしてくれるのであれば、これほどまでに不満の矛先を向けられるようなこともなかったと思うので、誠に残念である。


  1. 平成29年4月1日現在、帯広からの始発は、帯広発9時26分→釧路着11時00分の特急スーパーおおぞら1号である。注意すべきことに、この路線の列車は遅延することも少なくない。実際に、当職も列車の遅延のために判決言渡の開始に間に合わなかった経験がある。法廷に入るとすでに判決の言渡しが始まっていたので、そんな扱いされるんだったら弁護人なんて居ても居なくても同じじゃねえかと若干空しい思いを抱いたことが思い出される。 

  2. 当たり前であるが、自動車の運転をできることは、弁護人となるための要件ではない。そこで、自動車で移動できない弁護人が帯広で選任された場合、釧路で連日開廷される期日に往復できないという問題がある。 

  3. 当会の支部所在地から釧路へは、運転手付きで移動する人や、日帰りする人も、いないわけではない。しかし、前者は例外的であるし、後者は連日往復するとなれば相当な無理があり、訴訟活動への集中力が削られるであろう。少なくとも、連日裁判員事件に出廷し、法廷の準備もしながら、毎日片道120キロメートルの道程を自分の車を運転して往復する生活を1週間続けたら、当職は過労死すると思う。 

  4. 例えば、以前の釧路地検の検事正が書いた文章を見ると、「平成23年2月初旬までに行われた合計4件の裁判員裁判において,選任された裁判員34人(補充裁判員を含む)のうち,審理期間中釧路に宿泊した裁判員は20人にのぼる。」とある。http://www.kensatsu.go.jp/kakuchou/kushiro/page1000057.html 

  5. もちろん、そんな扱いをすれば、釧路周辺以外の裁判員候補者が呼び出しを拒絶する事態となるのは容易に想定されるから、できないと思う。なお、付言すると、法テラスは、国が設立した組織であるし、国選報酬算定を担当する国選弁護課長は、裁判所からの出向者が務めている。 

  6. 釧路の地方事務所は、当地の実情を承知していたから、どうか帯広の弁護人には宿泊費出してやってくれ、と強力に押していたようである。唯一の救いである。問題は、せいぜいグーグルマップみたいなもので経路検索する程度で実情も知らずに費用の算定を行い、弁護人から宿泊費を必要とする事情をいちいち主張して異議を出さない限り宿泊費を出さず(なお、異議を申し立てて必要性を主張すれば出るようである。)、当初の算定には誤りがなかったなどと強弁する法テラスの総本山である。 

  7. 例えば、普通に考えて必要な費用であっても、異議が出るまで無視を決め込むという姿勢はどうにかならないものか、とでも言おうと思ったが、もはやどうにもならないのだろう。費用の不払いをする者からの頼みごとを忌避するのは、一般国民の目から見ても、普通の態度である。何も、法テラスが憎いから特別に厳しいことを主張しているわけではない。 

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