事業承継と弁護士関与(4)弁護士のできること

そのようなわけで、弁護士は税務の問題についてはいささか触りにくいところがある。既に税理士業務をしているというならともかく、個人的には税務の関係はイメージがしにくい。

餅は餅屋ということである。

日税連からの要請

さて、最近の議論である。

日税連が、日弁連に対して事業承継の関係で連携を呼びかけてきたことがあったらしく、日弁連側でも議論されているのを聞いた。

これに対しては、「美味しいところだけ取っていってるだけではないか」とか「昔はこちらから連携を持ちかけても中小企業支援は税理士の中核的な業務だと返されたりして困ったものだが…」といったような、割と率直な議論も聞こえてくるところである。

ただ、この点は実際上の必要性が確かに出てきているようでもあり、考慮を要するところだと考えている。

弁護士が関与すべき問題

率直な感想としては、そういう方向性にならざるを得ないのだろうなという気がしている。

というのも、事業承継問題について税理士さんたちに強みがあるとしても、やはり困った問題は発生するからである。

すなわち、事業承継の多くの場合には相続の問題が避けて通れない。そこで、相続対策も行う必要があるが、そこは税理士さんには限界がある。本格的に親族間で揉めだして遺産分割協議をやるとか、遺留分減殺請求の問題が発生したとかなると、税理士さんには手を付けられない。

そうなってくると弁護士の出番ということにならざるを得ない。

ただ、事業承継系の相続紛争は、なかなかまとまらず五年十年と争っていることも普通にある。何より疲弊するのは当事者である。どうにかしようとすれば、まずは良く練られた遺言を書く、というのが一応の策であろう。

そこで、事業承継に当たって税理士さんサイドで必要を感じる場合には、まずは弁護士と協力しながら遺言作成を行う、ということがより普及するようになれば良いと思っている。

そうすれば、遺言がなくて困ることにならないし、また、登記ができないとか、税金が払えないとか、紛争の火種が埋まっていたといった、あっても微妙な遺言が出てくることを防ぐこともできる。

もちろん、こう言ってしまうと身も蓋もないが、遺言があってもなくても揉めるときは揉めるので、その時はもう腹を括って弁護士が出ていくしかない。

廃業の需要

ここまで事業承継のことを述べてきたが、一方で、事業を承継せず廃業を検討するというニーズは意外に多い。

例えば、帯広商工会議所のアンケート結果を見ると、「事業承継を希望しておらず、廃業する予定」という回答が31.4%もあった。

もちろん円滑に廃業が進むなら良いのだが、例えば、会社が債務超過の場合には法的整理をすべきであるから、そのような事案であれば、むしろ弁護士が入る必要性がある。

そして、そのような事案は、今後も一定の件数は発生するように予想している。事業承継の仕組みは整備される一方、思惑どおりには行かない場合もあるかもしれない。

そのような場合であれば、むしろ弁護士の強みが発揮されるところではある。

親族外承継の対応

あとは、M&Aなどの親族外承継という手法があるが、この分野では民間会社による仲介業務が旺盛に見える。ただ、民間会社がそのような事業をやる場合、色々と問題が生じてくるおそれはある。

例えば、仲介業者の中には、顧客の法律問題へのアドバイスを提供していることを堂々とうたっているようなのもいる。確かに、会社を売り買いするような局面では様々な法的問題が生ずるとはいえ、それは弁護士法に違反しているのではないかという疑念がある。

また、手数料目当てでM&Aを何としても成約させるため、売買当事者に無理な条件をゴリ押しすることも類型的に危惧される。法令上そういうことをやってはいけないとされている弁護士から見ると、そのような商売の仕方はちょっと想像し難い。

このような状況で実害が生じるようでは社会的にも困るので、日弁連が組織的に対策すべき問題であるように思われる。

とはいえ、弁護士サイドは非弁行為だ利益相反だと言うだけで、実際問題この分野に通じる弁護士が足りてないじゃないか、との批判も出てくるかもしれない。それではいけないので、規模の決して大きくない企業における事業承継についても、状況に応じて必要なアドバイスを弁護士宛に求めて来てもらえるような体制を整えることは重要になっている。

最後に

以上、事業承継の問題で弁護士の果たすべき役割は大きいし、また、割と重要な部分を占めている。それにもかかわらず、これまでは弁護士の関与が必ずしも十分でなかった分野ではあるかもしれない。

そこで、効果的に関与できるところは、できるだけ関与できるように道筋を整えて、事業承継を望む人たちの希望が円滑に実現するよう努めることは大事になっている。あるいは、人によっては事業承継を望まないこともあるかもしれないが、そのような場合も同様である。この分野に関しては、そういう心構えで取り組んで参りたいと考えている。

 

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